tag:blogger.com,1999:blog-46259636660973394282024-03-14T13:50:33.462+09:00イエティ・サスクワッチ・マイペット熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.comBlogger89125tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-47669470912594349402014-12-16T23:58:00.001+09:002014-12-16T23:58:10.871+09:00輝かざる者食うべからず<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgIYR2sz18jeHs3_st5MQP0E2AGamfAHtivIcUCqClQEktAsVO7WItXfw9ha90oPaZJ3xA5CxcNzBSdczeEcmn4JiqQPqSA1NBr1wvkmXGbn-5m-bAnh7YpjB1OSLWgu2bQKn4Y0MJDs0-_/s1600/FullSizeRender.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><img border="0" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgIYR2sz18jeHs3_st5MQP0E2AGamfAHtivIcUCqClQEktAsVO7WItXfw9ha90oPaZJ3xA5CxcNzBSdczeEcmn4JiqQPqSA1NBr1wvkmXGbn-5m-bAnh7YpjB1OSLWgu2bQKn4Y0MJDs0-_/s1600/FullSizeRender.jpg" height="240" width="320" /></a></div>
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">逮捕状の提示も、弁明の機会も、しかるべき手続きもなく、男たちは彼を拘束し、この薄汚れた部屋に拉致したのだっ。</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">威圧感たっぷりに見下ろす二人の男に囲まれながら、彼は固い椅子の上で身を強張らせている。</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">「お前のその苦虫を噛み潰したような顔も今日が最後だと思え!」 </span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">ダルマのようにずんぐりむっくりした男が怒鳴った。</span><br />
<a name='more'></a><br />
<span style="font-family: inherit;">捕らわれの身の男は驚いた顔をした。まるで自分の顔についてそのようなことを言われるのは心外だといわんばかりだ。</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">するとダルマは「口答えすんじゃねえっ」と机を激しく蹴り付けた。怒鳴られた男はその剣幕に気圧されて、自分が何も言ってはいないということにも気がつかない。</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">もうひとりの男が仲間を手で制止して、穏やかな声で語りかけた。「少々疑いが、まあ、あるというのでね、君について。で、君はそれを晴らす義務があるというわけだ」 </span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">「疑い?」 その声は不安に満ちている。</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">「ああ、君は少し変わっている。つまり、われわれの国にそぐわない、というか、ふさわしくない、いや反社会的ですらあるのだ」 のぞき見るような目つきでじっと見る。</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">「僕はなにも……」</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">「いや、ただ君が、なんとなく、いや実のところ、ひどくあやしいというのがわれわれの考えなのだ。つまり、君は実につまらなそうだ。というか不機嫌ですらある。町内のみなさんがそうわれわれに訴えている……あの陰気な男をどうにかしてほしい、対策してほしい、と。通報がきた。通報があれば動く、とりあえずね。それがわれわれの仕事だ」</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">通報というやや物々しい言葉が心をえぐったのかもしれない、陰気だといわれた男はかすかに眉をひそめた。これがダルマの気に入らなかった。今にも殴りかからんばかりの勢いで叫ぶ。「たまげた! たいしたネクラだぜ! 社会を明るくする運動に楯突く一味に決まってますよ! ひとつここは俺に任せてください!」</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">「待て待て」ともうひとりの男。再び座らされた我らの友人に顔を向けて「いや、たいしたことはないんだ。ただ、君のね、その悲しげな顔が問題なのだ。いや、君はそれは俺の勝手だだろうというかもしれない。だが、もしその君の悲痛な面持ちが、善良な市民の輝き、喜びを損なうとしたら? 危険なのだよ、社会の脅威なのだよ。我が国がテロとの戦いを最重要事項に掲げていることは知らぬとはいわせないよ」</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">テロ! なんという恐ろしい言葉だろう。彼の頬が微かに震えはじめた。そうだ、彼も馬鹿ではない。笑おうとしているのだ。</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">「君はまったく輝いていないな。輝かざるもの食うべからず……安倍首相もそういっている。輝いていないものは、この国では生きる資格などないのだ。さあ、キラキラと笑うのだ、朗らかに! そしてこれからずっと日本人らしくにっこり微笑んでくれることに同意して、この誓約書ににっこりサインしてくれれば、それでおしまいだ」</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">彼の笑顔への努力は続けられていた。今や顔全体が痙攣していた。笑え、笑うのだ。後一歩だ、もう少し……しかし、突如として恐怖と嫌悪がぶり返してきた。たちまち微笑みの萌芽は踏みにじられ、厳冬の雪のごときしかめっ面が我らの友の顔を覆い尽くす。</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">「なんてえメランコリアだ!」 ダルマが下卑た声を上げる。皮肉ったらしく「コリア」の部分を強調。「こいつはどうも反日勢力ですぜ!」</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">「ああ、わたしの友人は少々思い込みが激しくてね。だが、君が態度を変えないのなら、わたしとしても彼の見方というものを支持せざるを得なくなるよ……聞かせてほしいものだな、周りへの迷惑も顧みずショボくれ顔に固執する君のそのワケを」</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">ダルマが叫ぶ。「は! ワケなんてあるもんですかい! 日本が憎くてたまらないってツラじゃないですか!」</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">「そうなのかね、わたしのこの愛国的な友人の語る通り、君は日本の誇りを破壊しようとしてそのいやらしい反日顔を続けているのかね。そうでなければ、さあ、言いなさい。君の憂愁の理由を打ち明けるのだ」</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">「なんのことか……僕は……悲しくなんかありません。今のままで、十分楽しいのです」</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">「ハハ! 最高のジョークだぜ!」 ダルマがけたたましく笑った。「ここまでシラを切り通されたんじゃ、俺たちだって黙っちゃいられねえ。こうなりゃ実力行使だ!」</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">もうひとりの男はもはや制止はしなかった。彼はいまやぞっとするような眼差しで、怒れる仲間が上着を脱ぎ捨て、腕まくりするのをじっと見つめていた。</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">ダルマはズボンのポケットから取り出したおもしろ眼鏡をおもむろに装着した。この予期せぬ行動に愕然とした捕らわれの男が、もう一人の男に目を向ける。なんといつの間にか安倍首相のおもしろゴムマスクをかぶっているでないか。</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">仮装した二人の男は一斉に両手を上げた。殴られる、と彼が身をすくめた瞬間、けたたましい破裂音が響き、火薬の匂いとともに紙テープが降り注いできた。</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">おお、このクラッカーは、ぶちのめされるよりも、蹴られるよりも、傷つけられるよりもはるかに恐ろしい拷問の開始を告げるものだったのだ。</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">男の目の前にぶちまけられたのは、ありとあらゆるパーティ用品、バラエティグッズ、ジョーク製品、ユーモア・プロダクツ、愉快なゲーム。これら残虐な遊具を操るは、まさに地獄から出向してきたエリートたち、全身サルタイツからメイド姿への早変わり、顔芸、腹芸、尻芸、おどけた踊りにムーンウォーク、ちょっとちょっとのひな壇芸、かと思えばジャグリングに手品。クラッカーとサイリウムが花火のように室内を彩り、パッチンガムの破裂音、笑い袋の哄笑を背景にまだまだ続く罰ゲーム、熱湯風呂、物まね、ヒゲダンス。 思い思いのコスプレで、自信満々の一発ギャグで、思わず声を上げるサプライズ演出で、思い出せるだけの小ネタを振りまいて……凄惨なばか騒ぎは、想像を絶した責め苦は、ついに無限大の様相を帯び、おお、取調室を、いやこの宇宙そのものを、バラエティ化し、27時間テレビ化し、春の祭典化したのだっ。</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">しかし、見よ、男の顔は、笑いに沸騰するこの宇宙のただ中で冥王星のように冷えきっているではないか。</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">無慈悲な人権侵害に夢中になっていた恐るべき二匹の鬼たちは、不意にこのハデースの顔に気付く。なんたるKY野郎! 激しく怒りだす、目を剥く、もう罵り出さずにはおれぬ。</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">「え? 北朝鮮のニュースキャスターかよ! 将軍様がおっちんだときの!」</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">「君のような者がいるから、被災地に笑顔が届かないのだ! 絆を台無しにするクズめ!」</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">と、そのときだ。扉がばっと開いて、「大成功」の看板を掲げた男が乱入した。ドッキリだ。もう大爆笑。腹を抱えてダルマが男に叫ぶ。「ハー、ヒー! 気がついてた? 気がついてた?」</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">「終了〜!」 相方が小躍りしながら男を立たせて、「こっちこっち!」と隠しカメラのほうに向くように促す。「はいチーズ! 大成功!」</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">しかし、彼は今や何という顔つきだろうか。死人の顔だ。それもただの死人ではない。純粋なる意志の力のみで命を絶ちきった自殺者の顔だ。</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">命を凍らせるその殺人力が、森羅万象に及ぶおどけ熱を一気に蹴散らした。嵐のごとき臆病風に吹かれて男たちは白面に戻る。そしてぶるぶると震えながら部屋から退出する。</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">「絆なんてくそくらえ」 弱々しく誰かが捨てぜりふを吐くのが聞こえた。</span><br />
<span style="font-family: inherit;"><br /></span>
<span style="font-family: inherit;">男はその後独房に移された。窓も明かりもない、真夜中の匂いのする牢獄だった。彼はしばらくぼんやりしていたが、やがて固い寝床に身を預け、顔を押し付けた。突如として沸き起こった奇怪なしゃくり声がその身を震わせる。むせび泣いているのか、笑いを押し殺しているのか。おそらくその両方だろう。</span></div>
熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-32442291743698541062014-10-14T04:45:00.000+09:002014-12-16T16:41:06.735+09:00マスゴミの正体<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
テレビじゃ台風台風って大騒ぎ、ここ十年で最大だとかさ、厳重な警戒を呼びかけるとかさ、言ってるけど、それでも俺は出かけるよ、街に繰り出すよ。結局たいしたことないんだから。傘なんか持つもんか! なにかって言うと煽るのがテレビってやつで、それに乗せられるのは間抜けだぜ。どうせ、台風が来てみりゃ、まあ、拍子抜け。そよ風程度。たいした災害も起こりゃしない。大山鳴動してなんとやらってわけで! あれほど騒いでた電車だって通常運行で、大慌てで備えなんかしてたほうがバカ見るっての。<br />
<a name='more'></a><br />
俺はもともとそゆのに気がついてたんだ。テレビってのは煽るだけ煽るんだって。それが視聴率に結びつくってんだから、もう煽るのが習性。何でも大げさに言って関心をそそって、期待を持たせて、脅して、びびらせて、不安にさせて。それでまあ後は野となれ山となれで、見てる連中がどんな目に遭おうと知らぬ存ぜぬさ。踊らされるほうが悪いって理屈だ。たいしたマスゴミさ。俺はとっくの昔に気がついてたんだ。テレビの汚いやり方に。何年も前のことだよ。バレンタインってあるだろ。まあ、こいつをテレビが煽ること煽ること。女子が男子にチョコを上げる特別な日だなんて言っちゃってさ。で、俺も若かったんだね。うっかりその気になっちまった! 外出せずに家で待機してたんだ。だって留守だったら女子たちに悪いでしょ。ところがだ、だあれもやってきやしない。チョコのチの字もありゃしない。一日棒に振ったよ! パチンコ行ってりゃよかった! それで俺は気がついたんだ。 テレビなんかでたらめだって。いんちきばっかり流すんだって! くだらん! 俺はもうだまされない! チョコだけじゃない! あいつらの煽りときたらとことん性悪だ。くそ! バカにしやがって! その手には乗らないぜ! そうだ、結局あれだって来やしなかった……サンタさんだって……(泣)</div>
熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-39840552017298144112014-02-19T22:53:00.001+09:002014-12-16T16:36:31.072+09:00アイムナスティ・インターナショナル 《屁の巻》<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
<div style="text-align: justify;">
世界中で悪ふざけを推進している国際非政府組織(NGO)アイムナスティ・インターナショナル(Imnasty International)は,今日午後,都内で緊急記者会見を開き,同団体が行っている「届け市民の屁! 満員電車で放屁アクション実行委員会」のディレクターである吉良上野介(きらうえの・たすく)氏が実際には同活動において放屁を行っておらず,浅野卓巳(あさの・たくみ)氏が匿名で代屁をしていたことを明らかにした。会見には浅野氏と同団体顧問弁護士の大石内蔵(おおいし・うちぞう)氏が臨んだ。<br />
<a name='more'></a></div>
<div style="text-align: justify;">
<br /></div>
<div style="text-align: justify;">
「18年間,匿名で放屁を行ったわたしは,吉良上野介氏の共犯者です」——衝撃の一発に会場にどよめきが走るなか,浅野氏は淡々と自らの偽りのボランティア活動について放屁を交えつつ約5時間のあいだ語った。氏によれば,吉良上野氏から代屁の依頼があったのは1996年末のことで,はじめはアイムナスティの活動の支援になればと軽い気持ちで応じたのだという。しかし,3年ほど前からマスコミにも大きく取り上げられるようになったことから,次第に戸惑いを感じるようになった氏は,たびたび吉良上野氏に対して事実の公表を求めたところ「屁か糞か(放屁を続けなければ脱糞してやる)」と迫られたと語る。「公表するべきか逡巡しましたが、やはり事実を明らかにして自分もお詫びしなければならないと思い至りました。このまま事実を伏せ続ければ、ソチ五輪でアイムナスティ・インターナショナルが実行を予定している『世界に鳴り響け! 国際同時多発放屁行動』という大きな舞台までもが吉良上野氏の虚構を強化する材料にされてしまうのではないか,と思ったからです」とすべてを打ち明ける浅野氏の顔にはまるで溜まっていた屁を一気に放出したかのような清々した表情が浮かぶ。</div>
<div style="text-align: justify;">
<br /></div>
<div style="text-align: justify;">
浅野氏によれば18年間の代屁の回数はおよそ2万発,ただしこれにはスカしっ屁は含まれない。吉良上野氏の代表作で広島の原爆の惨禍をおならで表現し尽くしたと絶賛される「交響曲第1番HEROSHIMA」も自らの代屁によるものだとし,吉良上野氏の「屁爆者2世」という経歴についても疑念を表明した。さらに,吉良上野氏が,胃腸の重度の過敏さというハンデを負いながらも,身をいっさい漏らさずに高らかに放屁をする高度な肛門能力を持つことにちなむ「現代の屁ートー便」との評価に関して「わたしとしては彼は放屁する時は常におむつを着用しているという認識」と語った。終始落ち着いたようすで記者たちからの質問に答える浅野氏だったが,今後の放屁活動について質問されると「許されるなら仲間たちと続けて行きたい」と,屁をこらえ続けているかのような辛そうな表情を見せた。</div>
<div style="text-align: justify;">
<br /></div>
<div style="text-align: justify;">
同席したアイムナスティ・インターナショナル顧問弁護士の大石氏は「まさに寝鼻に屁」と困惑気味に語り,「放屁を通じた市民活動自体が屁のようなものと見られないか」と懸念を表明する。そのいっぽう,吉良上野氏に対する処分は行わない方針だという。</div>
<div style="text-align: justify;">
<br /></div>
<div style="text-align: justify;">
今回の浅野氏の公表により追い込まれた吉良上野氏が今後どのような「イタチの最後っ屁」を放つのか,その肛門の動向に注目が集まっている。</div>
<div style="text-align: justify;">
<br /></div>
<div style="text-align: justify;">
<br /></div>
<div style="text-align: justify;">
<br /></div>
<div style="text-align: center;">
<div style="text-align: center;">
<span style="font-family: Arial, Helvetica, sans-serif;">(写真)</span></div>
<div style="text-align: center;">
<span style="font-family: Arial, Helvetica, sans-serif;"><br /></span></div>
<div style="text-align: center;">
<span style="font-family: Arial, Helvetica, sans-serif;"><br /></span></div>
</div>
<div style="text-align: center;">
<div style="text-align: center;">
<span style="font-family: Arial, Helvetica, sans-serif;">「関係ねえ! どっちもぶっ殺せ!」と怒る埼京線の乗客たち。</span></div>
</div>
</div>
熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-24677404324861372622014-02-17T23:53:00.002+09:002014-12-16T16:37:05.129+09:00ギャザーズ・ノー・モス<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
【登場人物】<br />
A:ローリング・ストーンズのファン。<br />
B:その友人。ロックのことはまったく知らないが,Aに誘われてライブに来た。<br />
C:Bの先輩。<br />
<br />
2014年2月26日16:30東京ドーム前。ローリング・ストーンズ来日公演の看板がある。<br />
<br />
A「お,ちょうど開場時間だ。もう入っちゃおう」<br />
<a name='more'></a><br />
<br />
B「待ってくれ,もうひとり来るんだ」<br />
<br />
A「だれ」<br />
<br />
B「先輩」<br />
<br />
A「でも席は違うだろ」<br />
<br />
B「すぐ着くから待ってくれって」<br />
<br />
A「そう」<br />
<br />
B「先輩,俺がローリング・ストーンズはじめてだって言ったら,特別にベストを作ってくれたんだ」<br />
<br />
A「新しいベスト聞けば十分だって言ったじゃん」<br />
<br />
B「3枚組のだろ? ちょっと多すぎるし高い。で,先輩に言ったら,選りすぐりの5曲をCDに焼いてくれた」<br />
<br />
A「へえ,たった5曲! 何入ってんの」<br />
<br />
B「えーと,一番気に入ったのは,あれ,名前まで覚えてないや,ジャンプなんとか」<br />
<br />
A「ジャンピン・ジャック・フラッシュ。なるほどこれは欠かせない」<br />
<br />
B「たしかそんな感じ。ウ〜ジャンパッてやつ」<br />
<br />
A「そんな感じかな?」<br />
<br />
B「あとイビキのヤツ」<br />
<br />
A「なにそれ。なんて曲」<br />
<br />
B「なんだっけ,ちょっと待ってて,CD持ってるから(CDを取り出してAに見せる)」<br />
<br />
A,曲目を見て驚愕する。<br />
<br />
<div style="text-align: center;">
【ローリング・ストーンズ】2014年東京ドーム公演はこの曲を押さえろ!【完全セトリ】</div>
<div style="text-align: center;">
1. In Another Land</div>
<div style="text-align: center;">
2. Downtown Suzie</div>
<div style="text-align: center;">
3. Jump Up</div>
<div style="text-align: center;">
4. Come Back Suzanne</div>
<div style="text-align: center;">
5. (Si Si) Je suis un rock star</div>
<div style="text-align: left;">
<br /></div>
<div style="text-align: left;">
A「何だよ,こんなビル・ワイマンの曲絶対やんねーよ! しかも後半3曲はストーンズの曲ですらねえ! ビル・ワイマンの誰も知らねえソロアルバムからじゃねえか」</div>
<div style="text-align: left;">
<br /></div>
<div style="text-align: left;">
C「(背後から)ふふふ,よくわかったな! なかなかやりおるわい!」</div>
<div style="text-align: left;">
<br /></div>
<div style="text-align: left;">
B「あ,先輩!」</div>
<br />
C「(Aに)わたしは今回のライブでのビル・ワイマンの電撃復帰を予想しているのだ! すべての兆候がそれを指し示している! ポール・マッカートニーの来日! 川上哲治の死去! 板東英二の復活! あらゆる……」<br />
<br />
A「(無視して)さあ,中に入ろう」<br />
<br />
B「先輩,席どこなんですか? もしかしてあの8万円の席じゃあ?」<br />
<br />
C「ゴールデン・サークル席だと? ストーンズのLPにちっちゃなコンドームがついていた頃からのフリークであるわたしがそんな席で満足するとでも? ふふふ,わたしのチケットを見るがよい!」<br />
<br />
C,懐から布の包みを取り出す。包みを開くと,マリモのような物体が。<br />
<br />
B「なんですかそりゃ」<br />
<br />
C「苔むした石だ! いや,こう言ったほうがよい,転がる石にも生える苔だ! そうだ,わたしは,石の回転をものともしない強靭な苔を長年の研究によりついに生み出したのだ。これを見たら,ミックとキースはショックのあまりわたしにバックステージ・パスを渡すようきっとアランに命じることだろうて!」<br />
<br />
A「(小声で)こりゃ間違いなく19回目どころじゃない神経衰弱だ!」<br />
<br />
C「おお,まさに悪魔の発明! プリーズ・アロゥミー・チュー・イントロジュース・マイセッ!(身体を痙攣させながら歌い出す)」<br />
<br />
A「(Bに)雲から追い出すよりも,こっちが逃げたほうがましだこりゃ!」<br />
<br />
AとB,東京ドームの中に逃げ込む。C,イカれた目つきになり,恐ろしいダミ声で唸りながら入口に向かう。「ヨウウ……グアッタ……ムウゥゥウゥブ……」<br />
<br />
***<br />
<br />
終演後。ドームから吐き出される人,人,人。<br />
<br />
AとBも興奮冷めやらぬようすで出てくる。<br />
<br />
B「かっこよかった!」<br />
<br />
A「最高だった! もうこれで俺は死んでも悔いはない!」<br />
<br />
B「あ,先輩!」<br />
<br />
C「(泥まみれになって倒れている。傷だらけの顔がガードマンとの激しい格闘を物語る。手には例のマリモが握られている)う,う,う……」<br />
<br />
AとB,駆け寄ってCを抱き起こす。<br />
<br />
C「笑ってくれ……ストーンズを信じすぎた男の末路を……」<br />
<br />
C,喘ぐ。激しく痙攣し,顔をのけぞらせる。<br />
<br />
C「(苦悶の顔で)フッ!」<br />
<br />
AとB「しっかり!」<br />
<br />
C「フ〜〜ッ,ダディユアフールクラアィイイイイイェエエエ〜」<br />
<br />
A「(Cを突き放して)さあ,行こう!(ずんずん歩きはじめる)」<br />
<br />
B「(とっさにAを追うが,振り向いて)先輩!」<br />
<br />
C「(立ち上がりながら)俺なら平気だ! (苔むした石を天に突き上げて)待ってろよ! 次はお前だ! 3月に来日するボブ・ディランよ!」<br />
<br />
B「(『だっふんだ!』に極めて近似した口調で)ハアダズイフィ〜イッ!」<br />
<br />
<div style="text-align: center;">
(幕にてロック・オペラ終了)</div>
<div style="text-align: center;">
<br /></div>
<div style="text-align: center;">
<br /></div>
<div style="text-align: left;">
【ローリング・ストーンズを知らない人のために】</div>
<b><i>新しいベスト</i></b><br />
「GRRR! ~グレイテスト・ヒッツ 1962-2012」<br />
<br />
<b><i>ジャンピン・ジャック・フラッシュ</i></b><br />
"Jumpin' Jack Flash"(1968年の曲)<br />
<br />
<b><i>ウ〜ジャンパッ</i></b><br />
<div>
ローリング・ストーンズの元ベーシスト,<span style="text-align: center;">ビル・ワイマンが1982年に発表した</span>ソロアルバム"Bill Wyman"中の曲,"Jump Up"のサビ。</div>
<br />
<b><i>イビキのヤツ</i></b><br />
<span style="text-align: center;">"In Another Land"(1967年の曲)。</span><br />
<div>
<br />
<b><i>ミックとキース</i></b><br />
ローリング・ストーンズのボーカルとギター。<br />
<br />
<b><i>アラン</i></b></div>
アラン・クライン。ローリング・ストーンズの元マネージャー,故人。<br />
<br />
<b><i>19回目どころじゃない神経衰弱</i></b><br />
「19回目の神経衰弱 "19th Nervous Breakdown"」(1966年の曲)。<br />
<br />
<b><i>プリーズ・アロゥミー・チュー・イントロジュース・マイセッ!</i></b><br />
「悪魔を憐れむ歌 "Sympathy for the Devil"」(1968年の曲)。出だしの歌詞"Please allow me to introduce myself..."<br />
<br />
<b><i>雲から追い出す</i></b><br />
「一人ぼっちの世界 "Get Off of My Cloud"」(1965年の曲)。<br />
<br />
<b><i>ヨウウ……グアッタ……ムウゥゥウゥブ……</i></b><br />
「ユー・ガッタ・ムーブ "You Gotta Move"」(1971年発表のカバー曲)<br />
<br />
<b><i>フ〜〜ッ,ダディユアフールクラアィイイイイイェエエエ〜</i></b><br />
「愚か者の涙 "Fool to Cry"」(1976年の曲)。"Fool, daddy you're fool to cry..."<br />
<br />
<b><i>ハアダズイフィ〜イッ!</i></b><br />
ボブ・ディランの1965年の曲"Like a Rolling Stone"中の歌詞"How does it feel?"。<br />
<div style="text-align: left;">
<br /></div>
<div style="text-align: left;">
<b><i>ギャザーズ・ノー・モス</i></b></div>
<div style="text-align: left;">
1977年に発売されたローリング・ストーンズの2枚組のアルバム。オリジナルではなく日本だけの特別編集盤。</div>
</div>
熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-82544579616044744742013-12-24T02:16:00.003+09:002014-12-16T16:37:34.911+09:0012月24日 クリスマス・イブ<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
君がサンタクロースだとして,クリスマス・イブの夜に世界中の子どもたちにプレゼントをあげたいと願っているとしよう。<br />
<div>
<br /></div>
<div>
どうしたら,それは実現できるだろうか。</div>
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<br /></div>
<div>
まず1人では無理だ。世界中に子どもがどれだけいるか知らないが,たった一晩の間にすべての子どもにプレゼントをあげるなんて不可能だ。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
しかも,ただ単にあげればいいってもんじゃないのだ。<br />
<a name='more'></a></div>
<div>
<br /></div>
<div>
子どもにも欲しいものがある——前もっていちいちリサーチしなくてはならない。そのためにどれだけの密偵が必要となるのだろうか?</div>
<div>
<br /></div>
<div>
枕元かどこかにそっと置いとかねばならない。適切な侵入経路を確保する頭脳,あらゆる錠を無効にする万能の鍵,物音ひとつ立てない驚異の身のこなし……いったいどのような神業がそれを可能にするのか。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
いや,独力で実行するのを諦めた君が,たとえ幾千幾万のサンタを厳しい訓練のもと養成し,イブの夜に一斉に世界に放ったとしても,これらの事柄は無理なのだ。</div>
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<br /></div>
<div>
そこで,君は考える。考えに考えて,ひとつの結論に到達する。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
自分がサンタクロースとしての責務を放棄することこそが,目的を実現する最良の手段である,と。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
君はもはやプレゼントを用意しない。それを袋に入れて雪の夜空を飛び回らない。どんな子どもにも何一つあげない。どんなにあげたくてじっと我慢する。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
そのかわり,君はサンタクロースの素敵な伝説を世界中に広める。そしてそれと同時に,あらゆるメディアを用いて民衆を洗脳するのだ。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
親たるものクリスマスイブにはサンタクロースの振りをしてこっそり子どもにプレゼントをあげねばならぬ,と。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
そう,君は,みずからサンタクロースであることをやめるという捨て身の戦略によって,世界中の親たちをかえってサンタクロースにしてしまおうというのだ。</div>
<div>
<br /></div>
<div>
もはや,密偵も神業も必要ない。何事も親たちが君の代わりにやってくれるだろう。</div>
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<br /></div>
<div>
歴史上のある点において,このようなトリックを案出した人物が存在したというのはまったく疑いないことだ。クリスマスのプレゼントによって世界を一変させたその恐るべき魔術師はいまも不在の衣を身にまとっている……。</div>
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<br /></div>
<div>
毎年,クリスマスが近づくと親たちは,子どもからそれとなく聞き出すだろう。サンタのおじさんからどんなものが欲しいの,と。そして,親たちは密かに買っておいたプレゼントを,イブの夜,子どもたちが深い眠りについた後に,その枕元にそっと置くのだ,サンタクロースなどいないと心から信じ込みながら。</div>
</div>
熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-43223723117415256252013-08-12T21:29:00.001+09:002013-08-12T21:29:14.801+09:00霊の名前(4)<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
<div style="text-align: justify;">
急なざわめきが外から聞こえた。雨が降り出したのだ。瞬く間に豪雨となり,そのしぶきが外の暗がりを白濁させた。彼は事務室の扉に向かって叫んだ。「フーラークース! フーラークース!」 しかし,誰も来ないとみると,何やらぶつぶついいながら佐海のほうを向いた。<br /><br />「このオムニス資料がどのようにQ資料とP資料とを結びつけると二人が考えていたか,そこが重要なのですが,門外漢の私にはただ推測するほかありません。おそらく,そこには天地創造から救世主の到来に至るまでの物語が非常に詳細に記され,その前半がP資料として『創世記』に用いられ,残余の部分がQ資料の救世主としてのイエス像に活用されたのでしょう。もっとも,私の想定は間違っているかもしれません。繰り返すようですが,その原稿を読むしかないのです……。<br /><br />「いずれにせよ二人がこの問題に注ぐ情熱は並外れたものでした。日々の祈りと短い食事のほかはすべてオムニス資料の追求に捧げられておりました。夜を徹して討論することもしばしばでした。ウージェーヌ師はこどもの頃から柔術を熱心に学び,フランス留学中にはかの地の有力選手から勝利を奪ったほどの技量の持ち主で,人並みはずれた活力を持った方でした。そのような人物と日がな一日ともに過ごすのは,フレール・アントワーヌにとって相当な重荷であったに違いありません。おそらくそのときから彼の衰弱が徐々にはじまっていたのではないかと私は考えております」<br /><br />事務室の扉が開き,あの奇怪な姿の男が姿を現したとき,佐海は恐怖のあまり飛び上がりそうになった。しかし,マルタン師の関心は天井に向けられていた。「フラクス! バケツを持ってきてくれんかね! この雨ではまた雨漏りしそうだ」 フラクスと呼ばれた男は小さく唸ると廊下へと駆け出した。<br /><br />「あの男はいわばフレール・アントワーヌの兄弟子でして……もともと名の知れた柔術家で,それが縁でウージェーヌ師と知り合い,信仰の道に入ることとなったのですが,柔道の試合中に不幸な事故がありましてな……かわいそうな男です」<br /><br />フラクスはブリキのバケツとぞうきんを持って戻ってきた。マルタン師はフラクスに指図して設置させると,「お客様のための料理の支度を頼むよ」と言って去らせた。そして佐海のほうを向き「今日はどうか当地の名物である鶏料理を召し上がってください。ご飯のおかずにぴったりで何合炊いても追っ付かないほどなのです!」と喜ばしげに告げたのだが,その言葉はほとんど佐海の耳には入らなかった。彼はフラクスが去り際に自分をちらと見たときの憎しみと狂気に満ちた目にすっかり気持ちを掻き乱されていたのである。この修道院は何かが異常だった。最初の水滴が天井から滴り落ち,バケツの底で侘しい音を立てた。<br /><br />「ウージェーヌ師が」とマルタン師は再び話しはじめた。「脳溢血で天に召されたのは,四ヶ月ほど前のことです。あまりにも,あまりにも唐突な出来事でした。葬儀の準備,人事の問題,教区との連絡……次から次へとやるべきことが沸き上がりました。いつもの静けさを取り戻すのに,ひと月はかかったのです。私どもはみな忙殺され,師であり友人でもあり,そしておそらく父でもあった存在を失ったフレール・アントワーヌを気遣う暇などありませんでした。私どもは彼の変調に気付いてやることができなかったのです。これは何とも悔やまれることです。彼は次第に奇怪な行動を取るようになりました。裸に近い姿で歩き周り,大声でヘブライ語を読み上げ,食事を摂ることを拒否しました。彼の頭の中は,ウージェーヌ師と進めていた研究で一杯のようでした。常にQ資料,P資料について何やら口走り,興奮したり,震えたり,おののいたりしていました。また彼はオムニス資料に異常な執着を抱いていました。彼はそれが世界のどこかに隠されていると信じており,自分だけがその在処を探し当てることができると主張しました。奇怪な反ユダヤ思想がいつの間にか彼の頭に入り込み,O資料はユダヤ人が秘密に管理している,と荒唐無稽な陰謀論を捲し立てることもありました。おそらくこのような思い込みと関係あるのでしょう,急にアメリカに行くと言い出し,荷造りを始めたこともありました。彼はアメリカの巨大な博物館の倉庫にO資料そのもの,あるいはそれに関係する資料が眠っていることを突き止めたといって,むちゃくちゃな格好でこの修道院から飛び出したのでした。幸いにも,私ども私はこの無謀な試みを阻止することができました。ですが,その夜から,恐ろしい発作が彼を襲うようになったのです。それはひとたび起こるや否や,長い時間彼を苛みます,苦しめます。はじめは三時間ほどでしたが,発作のたびに持続時間は長くなりました。前回の発作はそれは恐ろしいものでした。まるまる一週間も続き,その間ずっと彼は奇声を発しながらのたうち回るのです。食事も,睡眠もなく! 彼はすっかり衰弱してしまいました! お医者さまはおっしゃいました。もし彼の体力が回復しないうちに,同じ規模の発作が起こったならば,それは間違いなく致命的なものになるだろう,と」<br /><br />滝のような雨が,山の修道院に降り注いでいた。床に置かれたバケツの水位がじわじわと上昇しているのが分かるほどだった。凄まじい雨音にもかかわらず,常軌を逸した物語を語るマルタン師の声は佐海の耳に食い込んできた。彼は思わず尋ねた。<br /><br />「マルタン師,ぼくは知りたいのですが,どうして椿と,そしてウージェーヌ師は,そのオムニス資料にそれほど夢中になったのでしょうか。その資料に一体どんな価値があるのでしょうか」<br /><br />「ああ,私もそのことについては幾度も考えました。結局は本人たちに聞くほかないのですが。とはいえ,一度彼らが議論している場に私も少しだけ同席したことがあります。ほとんど分からなかったのですが,二人はこれを信仰上の問題であると考えているようでした。聖書文献学とは,しばしば信仰に敵対するものと理解されることがあります。なぜなら,それは聖書というテキストの絶対性を危うくするからです。もしかしたら二人はこのような見方を退けるべく,聖書のテキストを徹底的に分析・分解することでより高度な信仰を打ち立てようとしていたのではないか,などと私は夢想することもあります」<br /><br />「信仰ですか……」 佐海は呟き,やがて意を決して,ここに来たときから抱いていた疑問を口に出した。「ぼくの知る椿は,およそ信仰とは縁のない男でした。いや,むしろ信仰そのものを徹底的に批判し,否定していました。ぼくはどうしても分からないのです。なぜ彼がキリストの信仰を受け入れたのかが」<br /><br />重苦しい沈黙の後マルタン師は答えた。「人によっては神を否定し続けることと,神を信じ続けることは同じことなのです……わたしに申し上げられるのはそれだけです。……ところで,次にフレール・アントワーヌとお会いするときに,ぜひとも佐海さんに……折り入ってお願いが……つまり,私どもが知っているのは,彼が非常な資産家ということでして……当修道院はなかなか,その,働きの点では困難に直面していると申しますか……どうか,お口添えお願いしたのですが……もし,もしですよ,万が一の場合に遺産を……」<br /><br />一筋の異様な悲鳴が,豪雨と薄暮を貫いた。怒鳴り声,そしてけたたましい足音がして,事務室の扉が開いた。椿の僧坊で身の回りの世話をしていた修道士が険しい顔つきでマルタン師に近寄り耳打ちした。マルタン師はさっと青ざめ,佐海にひとこと断ると大急ぎで出て行った。<br /><br />ああ,もしかしたら……。ひとり事務室に取り残された佐海は胸騒ぎを感じた。振り下ろされる鞭のように雨がザッ……ザッ……と修道院に襲いかかり,いやおうなく彼の不安を煽った。<br /><br />と,そのとき,窓が恐ろしい音とともに開いた。猛烈な雨がうなりを上げて吹き込み,黒い影が窓の向こうに表れた。「有効じゃ! これが神の言葉を冒涜したヤツらの末路だ!」 ずぶぬれのフラクスが室内に身を乗り出し,目を剥いて叫んだ。佐海は激しい風雨をまともに浴び,ソファから床にへたり込んだ。<br /><br />「ウージェーヌめ,神を冒涜しおった! 椿め! とんだ反則野郎じゃ! なにがQ資料だ,なにがP資料だ! 神聖なる神のみ言葉をずたずたに汚す悪霊どもめ! 有効を喰らうがいい! A資料だのF資料だの,戯言は背負い投げじゃ!」<br /><br />「フラクス!」 マルタン師が飛び込んでくる。「フラクス! なんてことを!」 狂人は威嚇の叫びとともに姿を消した。甲高い笑い声が遠ざかっていく。マルタン師は窓を閉めながら,佐海に椿の容態の急変を告げた。<br /><br />佐海はマルタン師とともに僧坊に駆け込んだ。椿は全身を痙攣させ,ベッドの上でのたうち回っている。どこにそんな力が残されていたのか。まことに悪霊ではないか……恐ろしい考えに佐海は捉われた。やがて病人は横たわりながら飛び跳ねはじめた。まるでベッドがトランポリンになったかのように。身をよじり,泡を口からまき散らしていた。 <br /><br />「おお,おお,主よ」とマルタン師が十字を切る。<br /><br />世話役の修道士が説明する。「私が目を離した隙に,フラクスが外から窓を開け,覗き込んでいたのです。あの男は,フレール・アントワーヌの目の前にこれを差し出していたのです」 修道士は佐海に三本の鶏の羽を見せた。<br /><br />凄まじい雷鳴が鳴り響いた。そしてほとんど遅れずに稲光。修道院が打ちのめされて崩壊したかのようだった。<br /><br />椿は飛び上がりながら,苦悶の叫びを上げる。そして,その絶叫は,次第にひとつの形となる。<br /><br />「バ……バ……」<br /><br />修道院の外で狂った高笑いが響き渡った。<br /><br />「バ……バ……バ……」<br /><br />再び天地を揺るがす稲妻。<br /><br />「バ……バ……バケラッタ! バケラッタ! バケラッタ!」 <br /><br />……生ける神の手に落つるは恐ろしきかな(ヘブル書第十章三十一節)。</div>
</div>
熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-53344139094921796472013-07-30T14:54:00.001+09:002013-07-30T14:54:51.861+09:00霊の名前(3)<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
修道院の事務室で,老神父(マルタン師という名だった)は佐海に分厚い紙束を差し出した。「佐海さんに出版のご尽力を頼んでほしい,というのです」 佐海の父は全国でも名を知られた出版社の創業者だった。そして,かつて椿にこう語った記憶が蘇った。「お前が本を出すときは,俺のところから出してやるぞ」 椿は約束を忘れていなかったのだ。<br />
<br />
紙束の一枚目に「近代聖書文献学批判序説 オムニス資料仮説の検討 椿陽一著」と記されているのを見ながら,かつてその約束をしたときの椿に自分がどのような書物を期待していたかを思い出そうとした。人間の知覚・認識構造のすべてを詳細に描き出すことによりそれらを突破し,悟りに似た経験をもたらす哲学的著作,語られる一言一言に古代日本語から現代語に至るまで意義の差異が内包され,あらゆる一節で日本民族史が響きあう現代小説,あるいは魂と社会と存在の深淵へと容赦なく下降していくひとつの足取りを描く『神曲』さながらの長大雄渾な叙事詩……。それらは,現在出版社を経営する者の目から見ても今なお魅力的な企画に思えた。だが,この手の書物は……,と彼は原稿をぱらぱらめくった。丁寧な文字で満ちたそれらのページは,修正,加筆,切り貼り,紙の継ぎ足しで覆われていた。驚くべき辛苦の跡だった。これは椿の生涯の仕事なのだ。内容が何であれ,俺はこの原稿を形にしてやらねば……<br />
<br />
神父はしかし,佐海の沈黙を逆に解釈した。「費用が問題でしたらば……フレール・アントワーヌに用意があるかと……」<br />
<br />
佐海はきっぱりと言った。「いえ,これはぼくと椿との約束みたいなものです。できる限りのことはしましょう。ですが,少し内容についてお話し願えませんか? なにしろ聖書の知識すら怪しいぐらいで」<br />
<br />
「ああ」 マルタン師は複雑な表情を浮かべた。「非常に高度な問題が扱われています。まことに申しにくいのですが,私もこの分野には疎いので。ウージェーヌ師がご存命なら良かったのですが……」 しかし,彼は自分に分かるだけは説明しようと決意したようだった。<br />
<br />
「前修道院長のウージェーヌ師は,聖書文献学の泰斗として知られたお方でした。専門的な著作もいくつか出されております。あとでお見せしましょう……聖書文献学とは聖書を聖典ではなく,ひとつの文献資料として捉え,綿密な比較と批判を通じてその成立過程を明らかにする学問です。これは19世紀のドイツで盛んになった関係上,どちらかというとプロテスタントの学者が多いのですが,フランスとドイツで神学を修められたウージェーヌ師はカトリックの立場から聖書原典批判に取り組んでおられたのです……<br />
<br />
「聖書については新約と旧約があるのはご存知かと思います。新約のはじめの四書はイエスの言行を記したマルコ,マタイ,ルカ,ヨハネの福音書なのですが,このうちはじめの三つには共通する逸話が多く,テキストを綿密に検討した学者たちは,これら三つの福音書(共観福音書と呼ばれておりますが)の作者たちが共通して参照したと考えられるギリシア語古資料の存在を確信するに至りました。もっとも古いイエスの言行録とでもいえるその失われた資料を,学者たちはドイツ語のQuelle(源泉)の頭文字をとってQ資料と名づけ,爾来現在に至るまでこの資料の性質に関してさまざまな議論が繰り広げられています。<br />
<br />
「いっぽう,聖書文献学は旧約聖書についても大きな成果を上げました。とりわけモーセ五書の巻頭を飾る『創世記』の研究が有名でして,本文の綿密な批評的研究はこの書が少なくとも三つのヘブライ語伝承資料から成ることを明らかにしたのです。その三資料とはヤハウェ資料と呼ばれるJ資料,エロヒスト資料と呼ばれるE資料,祭司(プリースト)の関与の色濃いP資料なのですが,いわば『創世記』とはこれらの三資料の継ぎ接ぎだと考えられたのです。後になって,本文批判研究の蓄積にともない,この説(文書仮説と呼ばれますが)には多くの反論が寄せられるようになりました。ある宗派の中にはこれを完全否定するものもあるほどです。しかし,この文書仮説の熱烈たる擁護者がウージェーヌ師だったのです。ウージェーヌ師はP資料の徹底的再検討を行い,これが従来J資料,E資料と見なされていたテクストにも広がっていることを明らかにするともに,従来バビロン捕囚期(紀元前五世紀)とされていたその成立年代を綿密な歴史的検証のもと紀元前三世紀にまで引き下げる修正文書仮説を提出いたしました。それがこの」とマルタン師は書棚に手を伸ばして革装の大型本を取り出した。「"Das Überdenken der historische Positionierung der Priesterschrift(『祭司資料の史的位置づけの再検討』)"です。これはまったく衝撃的な書物でした。なぜなら,天地創造という最古の物語が,実のところ旧約聖書で最後に成立した部分だというのですから……<br />
<br />
「ちょうど四年ほど前のことでしょうか,1人の青年が私どもの修道院の門を叩いたのは。彼は独自に聖書の研究を進めていることを告げ,かの重要な研究書の著者であるウージェーヌ師との面会を求めました。専門家ですら通読するのが難しいあの大著についてさまざまな疑問を携えて,直接著者に問うべくこの山奥にまでやってきたのです。ああ,出会うや否や二人が寝食を忘れて議論を交わしていたのを思い出します。それは傍から見ましても得難き出会いでした。言葉を交わすや否や双方が一瞬にして通じ合い,互いを認めあったのです。そして,次の朝には,ウージェーヌ師の勧めを待つまでもなく,その青年はこの修道院に見習いとして入会することを高らかに宣言したのでした。彼は規則に定められた通りの見習い期間を修了し,半年ほど前にフレール・アントワーヌ修道士として召命の道を私どもとともに歩むこととなりました。確かに,彼は当修道院ではもっとも新しく未熟な者ですが,その学識たるや,ウージェーヌ師の薫陶のおかげもあって,ここばかりでなく教区全体を見渡しましても,彼より優れた者は1人としておらぬほどの者となったのです。<br />
<br />
「フレール・アントワーヌは新約について何年も研究を続け,Q資料の問題に関して相当の見識を抱いておりました。そして,ウージェーヌ師の著作を読んだ後,Q資料とP資料との間に何か実質的な関連があるのではないか,と考えたのです。まったく聖書学的にいえば荒唐無稽な仮説です。というのも,P資料はウージェーヌ師の説を受け入れるとしても紀元前二世紀にアラム語で書かれたのに対して,Q資料はどう早く見積もっても紀元五十年前後に成立したギリシア語文献です。両者に何らかの関係があるとは普通は考えられません。しかし,驚くべきことにこの仮説はウージェーヌ師を興奮させました。二人は最初の出会い以来,Q資料とP資料との関係の究明に没頭することとなったのです。<br />
<br />
「私は通り一遍の聖書学の知識しかないもので,この二人がどのような研究を行っていたかについてははっきり申し上げることはできません。それに,それはこの原稿に必ずや述べられていることと思います(ついでにいうならば,この研究を論文として整理するようにフレール・アントワーヌに慫慂したのはウージェーヌ師なのでした)。私には難しくてとてもとても……。ですが,ひとつだけ私が理解していることがあります。それは,二人がQ資料とP資料との仲立ちとなるような宗教的文書を仮定し,それをO資料と呼んでいたことです。このOというのはラテン語で「すべて」を意味するOmnisの頭文字……そう,表題にあるオムニス資料とはこのことなのです」</div>
熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-43839115572082327742013-07-28T01:58:00.000+09:002013-07-28T01:58:45.453+09:00霊の名前(2)<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
この老神父から佐海のもとへ手紙が届いたのは四日ほど前のことだった。神への賛美と畏怖に彩られた古風な文体のその手紙から,彼は大学以来十年も音信不通だった友人が,最果ての修道院に寄留し,しかも死の瀬戸際にあるということを知った。神父は,椿が「この現し世の最後の望みとして」佐海にしきりに会いたがっていることを記し,同時にこれが修道院にとっても非常に厳粛な意味を持つことをほのめかしていた。佐海はこの非凡な友人が両親の不幸な死以来,天涯孤独の身であったことを思い出した。そして,彼が引き継いだ莫大な遺産が彼にどれだけ神秘的なオーラを与えていたかを。「今や椿陽一兄の命,旦夕に迫ろうとしております。兄のもっとも親昵なる友である貴兄の来訪を切にお待ちする次第。いと高き主の恵みとお守りが貴兄にあらんことを祈りつつ」と手紙は結ばれていた。<br />
<br />
老神父は一刻も早く佐海を椿のもとへ連れて行きたいようだった。佐海は彼の促すままに広間を通り抜け,庭に面した拱廊を進んだ。手入れの行き届いた草花が激しい雨の予感に押し拉がれていた。<br />
<br />
「それほど椿は悪いのですか」<br />
<br />
老神父は声を顰めて答えた。「残念ながら……なにしろ猛烈な発作なのです。ただでさえ細い身体があれほどまでに……すっかり衰弱し切ってましてな,次の発作は持つまい,というのがお医者さまの意見で。本当に駆け付けてくださったのは,私ども,あ,つまり,あの方にとって大いなる喜び……」<br />
<br />
「で,何の病気なのです」<br />
<br />
「ああ! それが分からないのです。もっぱら精神的なものとの見立てでございます。なにしろ熱烈な信仰をお持ちの方で……それこそ命をすり減らすような非常な献身を続けられた結果かと。ですが,ここ数日は安らかな日々で,これがずっと続けば良いのですが……」<br />
<br />
挟廊の奥の突き当たりには扉がいくつか並び,そのひとつを老神父はそっと叩いた。別の修道士が扉を開けると,老神父は優しい声で呼びかけた。「フレール・アントワーヌ(アントワーヌ兄)! あなたのお友達がいらっしゃいましたよ!」<br />
<br />
彼は,庭に大きく開いた窓を背景にベッドに横たわっていた。まるで骸骨のようにやせ細っていはいるが,その繊細でくっきりとした横顔は紛れもなく彼のものだった。朦朧として目の焦点も合わない様子で,まるで羽毛か影のようにはかなげに見えた。<br />
<br />
「椿! 来たぞ! 来たぞ!」 佐海は励ますように叫んだ。<br />
<br />
その目にかすかな光がひらめき,灰色の顔を生気が波立てた。<br />
<br />
「俺はお前がベッドにいるのを見れてうれしいよ! お前,大学の頃,寝ないのが自慢だったもんな!」<br />
<br />
椿はあどけないほどの笑みを浮かべ,佐海をじっと見つめている。<br />
<br />
「いつも本ばかり読んで,かと思うと議論,議論,議論だ。まったく寝る暇なんてありゃしない。俺はいつかこうなると思ってたぜ」<br />
<br />
うれしそうに喉を鳴らす。<br />
<br />
「ゆっくり休んで早く元気になることだな。しかし,俺は驚いたね,お前がキリスト教徒になったとは! ほら,あいつ,覚えているだろ,あのキリスト教徒の教授,そう飯島だ,お前,講義中にあいつに言ったこと覚えてるか,そりゃひどいこと言ったじゃねえか……」<br />
<br />
まったく大学時代の思い出は尽きなかった。話しているうちに佐海は感傷的な喜びを感じたが,それは確かに椿に伝わっていた。ほとんど話すことができなかった彼が,いつしかため息に似た言葉で佐海の記憶を補ったり,訂正しようと試みていた。左翼の過激派が乗っ取った大学公認サークルを,椿が巧みな計略により奪還するという名高い冒険についてひとくさり話題にすると,佐海はやや改まった口調で尋ねた。「で,俺に何の用があるんだ。なんだってするぜ,それでお前が元気になるのなら」<br />
<br />
たちまち椿の顔に赤みが差し,異様な光が目に宿った。彼は掛け布団から手を出し,うめきながら老神父を指差す……それまで黙って見守っていたその人は飛び上がらんばかりに驚き,ベッドに駆け寄った。「おお,フレール・アントワーヌ,大丈夫ですとも,私からきちんとお話しします」 やさしく椿の手を握る。「少しお休みいたしましょう。お体に触るといけませんから。佐海さんにはちゃんと話しますとも」<br />
<br />
「そうそう,少し休んだほうがいい。安心しな。俺はまた後で来るよ」<br />
<br />
佐海がそう告げると椿は幼児のように目を閉じ,まどろみはじめた。短い面会は友人をひどく疲弊させたようだった。邪気のないその寝顔を佐海は痛ましい気持ちで見つめた。</div>
熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-87119653297405710962013-07-27T15:37:00.000+09:002013-07-27T23:52:15.772+09:00霊の名前(1)<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
<div style="text-align: justify;">
鬱蒼とした森の上に古びた鐘楼が迫り上り,山道を登るにつれ修道院がゆっくりと姿を現した。</div>
<div style="text-align: justify;">
<br /></div>
<div style="text-align: justify;">
一歩一歩踏みしめながら佐海は椿陽一のことを考えていた。まったく信じられないことだった。学生時代にその鋭利な知能を恐れられた彼,誰もが有望な前途を疑わなかった輝かしき親友が今,この世に隠れた修道院で息絶えようとしているとは。昼を過ぎた辺りから曇りはじめた初夏の空は次第に陰気さを増し,それに急かされるかのように佐海は足を速めた。</div>
<div style="text-align: justify;">
<br /></div>
<div style="text-align: justify;">
不意に竹薮がざわめき,奇怪な風体の男が姿を現した。「おおお,ここは悪霊の巣じゃぞ!」 ぼろぼろの僧服から突き出した裸足の足を踏ん張って佐海の前に立ちふさがり,獣のように叫ぶ。「お前には手に負えぬぞ!」 歪んだ顔で睨みつけるその目はギラギラと狂気に燃えていた。
「悪霊どもよ! 有効じゃ!」 男は手にぶら下げた何かを振り回した。それが鶏の死骸であることに佐海は気がついた。「ゆーうーこーうー!」</div>
<div style="text-align: justify;">
<br /></div>
<div style="text-align: justify;">
そのとき,犬の鳴き声が修道院のほうから聞こえた。怪人はとたんに怯え出し,弱々しげな目で辺りを見回す。と,ううう,と唸りながら,再び藪の中に飛び込んだ。激しい葉擦れの音が遠ざかっていった。</div>
<div style="text-align: justify;">
<br /></div>
<div style="text-align: justify;">
佐海はこの異常な雰囲気にまったく圧倒されてしまった。修道院の鉄門の前にようやく立ったときも,彼は身の震えを抑えることができなかったほどだった。</div>
<div style="text-align: justify;">
<br /></div>
<div style="text-align: justify;">
呼び鈴を押さぬうちに,玄関から老人が小走りにやってくるのが,鉄柵越しに見えた。老人は鉄扉を開き,控え目な笑みで客を迎え入れた。「犬が吠えたもので! もうおいででになったとピンと来たわけで!」</div>
<div style="text-align: justify;">
<br /></div>
<div style="text-align: justify;">
老神父は佐海の青ざめた表情に気がついたとしても,それにこだわっている余裕などなかった。彼は明らかに佐海の来訪に有頂天になり,また同時に深い安堵を感じていた。</div>
<div style="text-align: justify;">
<br /></div>
<div style="text-align: justify;">
「お待ちしておりました! ええ,間に合いましたとも。本当に良かった! 今は落ち着いております。どうぞこちらへ!」 一匹のグレーハウンドがどこからともなく走り寄り,二人を玄関へと先導した。</div>
</div>
熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-15752597027952445452013-06-19T10:44:00.000+09:002013-06-19T10:53:13.725+09:00県々諤々<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
登場県:千葉県,香川県,大分県,埼玉県<br />
<br />
千葉県「スゴーい,うどん県なんて」<br />
<br />
香川県「いやいや,うどんが好きなだけで。大分県さんだっておんせん県にふさわしいですよ」<br />
<br />
大分県「ありがとうございます」<br />
<br />
千葉県「そうですよ〜。うちなんて鉱泉ばかりだもん。」<br />
<br />
香川県「千葉県さんだって,なんかあるはずですよ。自慢できるものとか,名産品とか」<br />
<br />
千葉県「ないですよ〜ホント。ダメな県なんです〜」<br />
<br />
大分県「あるじゃないですか。ほら,あの落……」<br />
<br />
千葉県(さえぎって)「え〜え〜え〜,あるとしたら,せいぜいディズニー県かなあ」<br />
<br />
香川・大分県「そうそう,千葉県さんスゴいじゃないですか!」<br />
<br />
千葉県「全然スゴくないですよ〜。だって,ネズミだよ〜。それにカリフォルニアとか,パリとか,香港とかにもあるもん,千葉だけじゃないよ〜」<br />
<br />
香川県「それだっていいじゃない。うどんだって日本中で食べますよ」<br />
<br />
千葉県「でも,関東ではうどんは病気のときだけでしょ〜。病気じゃないときに出されたらガッカリしちゃうもん。だからホントすごいと思うよ,うどん県さんって。元気なときも喜んで食べるんだから。ホント,見習わなくっちゃ!」<br />
<br />
香川県「……」<br />
<br />
千葉県(ちょっと考えて)「あっ,いいのあった! 空港県。だって成田空港があるでしょ」<br />
<br />
大分県「ああ,いいですね〜。あと,あれもあるんじゃないですか? ピー……」<br />
<br />
千葉県(さえぎって)「でも,そんなにたいしたことないよ〜。国際なだけだよ〜。ハブじゃないし,中森明菜が歌ってるし,成田闘争終わってないし,外国に行ける以外利点ないよ〜。やっぱり日本人は行くなら温泉ですよ〜,熱海とか! 草津とか! 鬼怒川とか!」<br />
<br />
大分県「……」<br />
<br />
埼玉県(薮から棒に)「池袋県!」<br />
<br />
全員「いたの!?」
</div>
熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-56001161074836856972012-12-05T16:01:00.000+09:002012-12-05T16:08:30.153+09:00総帥魚政(「覚醒超人Jドープ」妄紳名鑑)<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
【登場話タイトル】第42話「日本を狂わすニシンの野望」(放送日未定)<br />
<br />
【妄紳名】さかな妄紳 総帥魚政(そうすいうおまさ)<br />
<br />
【妄紳の特徴】<br />
環境汚染により発狂し凶暴化したニシン(魔ニシン)の大群と青年政治家との不幸な出会いによって生まれたのが総帥魚政だ。日本人を魚の奴隷にすることを目論んでいる。<br />
<br />
【ストーリー】<br />
若き政治家、増井政夫(立候補時の届け出は増井まさお)は葉山のヨットハーバーでひとり政策を練っているときに、 不覚にも議員バッジを海に落としてしまう。波間にプカプカと浮かぶバッジを取ろうと飛び込む政夫。だが、そのとき魔ニシンの群れが襲いかかり、若者は骨の最後のひとかけらまで食べ尽されてしまう……<br />
<br />
それからしばらくして町に奇妙なチラシがあちこちで配られる。見ると「無料でニシンとカズノコ食べ放題! 毎日開催! 主催:日本ニシンの会」と記されており、日頃から食い意地だけは張っているカンちゃんは、乗り気でないサトルを誘って会場に行く。すると、もう大変な人だかり、しかもその群衆のただ中で、何とも異様な風体の男が次から次へとニシン料理をふるまっているのだ。<br />
<br />
列に並びようやく待望のニシンの昆布巻きやカズノコたっぷりの松前漬けを前にするカンちゃん。だが、そのとき、サトルはニシンを咥えた人々がうつろな瞳で奇妙なスローガンを口々に話しているのに気がつく。<br />
<br />
「日本をニシンに変えよう!」「魚目線の政治!」「釣魚島を釣人島に改称せよ!」「入れ墨よりも鱗!」 「日本領海から外来魚を絶滅させよ!」「ニシン八匹!」<br />
<br />
「やめるんだ!」 サトルはひときわ大きなカズノコに食らいつこうとしていたカンちゃんに向かってとっさに叫ぶと、妄紳による恐ろしい野望を食い止めるべくJドープに変身する。<br />
<br />
【必殺技】<br />
総帥魚政の得意技は身欠きニシンによる手裏剣攻撃だ。さらに魔ニシンの集合体によってできているそのボディは、どんな攻撃も集合離散で巧みにかわしてしまうぞ。<br />
<br />
【弱点】<br />
無党派層をなすニシン収穫率の激減が悩みのタネだ。<br />
<br />
【妄紳の最後】<br />
Jドープの注入した国産高純度覚醒剤によってニシンが死滅。正気を取り戻した政夫は政治家を辞め、覚醒剤による幻覚と重いフラッシュバックに苦しみながらも海鮮居酒屋「魚政」と回転寿しチェーン「寿司政」を成功させ、さらには環境問題への熱心な取り組みを通じて企業ブランド力を高め、海外への事業展開をも視野に入れている。<br />
<br />
【撮影エピソード】 <br />
作中、増井政夫と総帥魚政を演じた俳優の石原太陽さんは実はニシンが大の苦手。毎日5時間かけて新鮮なニシンと特殊メーキャップで総帥に変身する苦行についに音を上げて、思わず「こりゃ徴兵に取られたほうがマシじゃワイ!」</div>
熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-49281236566041876532012-12-04T00:23:00.000+09:002012-12-05T12:41:44.781+09:00無知の知<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
わたしが友人と2人で店で酒を飲んでいると、ひどく酔っぱらった男が1人やってきて友人に絡みはじめた。<br />
<br />
わたしの友人は医者で、男はどうやらその患者らしかった。ろれつの回らぬ口で男は喚く。「あたしはね、ガンなんだろ、肝臓がやられてんだろ、もしかしたら肺だって、大腸だって! 隠したってこっちゃ、なんだってわかってんだぞ」<br />
<br />
友人は穏やかな口調で否定した。そして男が言い返そうと喉を鳴らしているわずかな間にわたしをちらりと見た。その落ち着いた目つきは、彼がこの男の扱いに慣れていることをもの語っていた。おそらく病院でも男はたびたび同じような振る舞いに及んでいるのだろう。<br />
<br />
「いいや、先生はあたしの病気を知ってて教えないんだ。いいですかい、そいつあ、人殺しですよ、ひ、と、ご、ろ、し!」<br />
<br />
「ですがね、川名さん、前にも言った通り、検査の結果はなんでもなかったんですよ」<br />
<br />
「検査なんか! あてになるもんか。あたしにゃはっきりわかるんだ。あたしのからだをおぞましいガン細胞が蝕んでんのを。もう、とことんまで行っちまった。病巣は破裂しちまった。明日にでも死んだっておかしくないんだ」<br />
<br />
「もし、そんな状態だったら、とっくに自覚症状がでてるはずですよ」<br />
<br />
「ああ、先生、まだわかんないんですか。自覚症状なんか当てになりゃしません。自覚症状がないから恐ろしいんじゃねえか。肝臓ガンに自覚症状なんかありますか? ありゃしませんや! なんつったて沈黙の臓器だから! 自覚症状がないのが肝臓ガンなんだ。だから、もし自覚症状がなければ、肝臓ガンをまず疑わなくちゃならん。先生、あたしはまったく自覚症状がないんだ、本当に驚くくらい! これは間違いなく肝臓がガンに侵されてるってことだ」<br />
<br />
「でもね、あなたのね、その論法で行けば、この世のほとんどの人間が肝臓ガンということになってしまいますよ。だって、みんな自覚症状がないんですから」<br />
<br />
この言葉は男を激高させたようだった。見る間に顔が真っ赤なった彼は拳をテーブルに振り下ろした。<br />
<br />
「そいつぁ全然違う! あたしゃね、自覚症状がないことはちゃあんと自覚してるんだ! 自覚症状がないことも自覚できない連中と一緒にしないでくれっつーの!」 <br />
<br />
男は急に喚き散らしはじめた。「先生、哲学を勉強しなさい、哲学を! 医学なんて! 学問の女王に比べれば! あたしはね、幾度もソクラテスの名を! まったく無知の知でさあ! これに尽きる! おおデルポイ! ダイモーン! おおそうじゃ、アスクレピオスにニワトリを捧げなくては! あやうく忘れるところだった! ニワトリ! ニワトリ!」<br />
<br />
男は手を鳥のようにパタパタさせながら跳ね回った。テーブルとテーブルの間を飛び回った。コケコケと鋭い声で鳴き立てた。首を伸ばして目を剥いて、ひっきりなしに頭の向きを変えた。もうすっかりニワトリだ。口を尖らかしてテーブルの焼き鳥をついばむ。唐揚げを、軟骨揚げを、ゆで卵を。マヨネーズをひと舐め! わざとやってるんだ。底抜けのやんちゃぶりだった。<br />
<br />
だが、見かねた店の主人がついに立ち上がった。主人は男の首根っこを鷲掴みにした。なんと男はたちまちおとなしくなる。夢から覚めたように辺りを見回した。あっけにとられてた。ニワトリが一斉に湖から飛び立ったみたい。男はフラフラと亡霊みたような足取りでわたしたちの目の前から立ち去った。<br />
<br />
わたしはその後ろ姿を見ながら嘲弄した。「とんだバカだ!」<br />
<br />
すると友人が「その病が一番自覚症状がない」と寂しそうに言った。 </div>
熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-30351772872974702182012-12-01T23:59:00.000+09:002012-12-02T00:01:33.478+09:00目指せ騒音ゼロ社会<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
子どもが泣くのが問題ならば、出産前診断で泣きそうな子どもだとわかったら中絶すべきだろう。</div>
熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-7445140049216751902012-05-02T00:33:00.001+09:002013-06-21T11:38:06.081+09:00対話編<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
「あのさあ、ウコンとウンコって間違えちゃうよね」<br />
<br />
「そうそう、俺もウンコをウコンかと思って食べちゃう」</div>
熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-51390778662306673512012-01-03T23:44:00.000+09:002012-01-03T23:44:02.429+09:00見学<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
「どんな子どもにも可能性がある。その可能性をできるだけのびのびと育む、というのが、ここの園方針で、そのために、できるだけ自由にカリキュラムを設定しています。たとえば、園児たちは毎朝、自分のしたいことを選ぶことができるのです」<br />
<br />
わたしは、彼について歩きながら活気溢れる幼稚園内を見回した。園庭で跳ねまわっている幼児たちもいれば、室内で夢中になって絵を描いているのもいた。元気に走り回っている子もいれば、地べたに座って泥だらけになっているのもいた。<br />
<br />
「ですが、あんまり自由にさせていては集団行動ができなくなってしまうのでは?」<br />
<br />
「この園のもう一つの特色は異年齢教育で、4歳から6歳までの子どもたちが10人ごとにグループになって朝の支度をしたり、お昼を食べたりするんです。今のお子さんは、横のつながりには強いけれど、縦のつながりが弱いといわれますが、早くからそうした関係を経験すると、成長がちがいますよ」<br />
<br />
わたしは子どもたちの中に一人ずばぬけて顔色の悪いのがいるのに気がついた。その男の子は園庭に開いた扉の前に座って、虚ろな眼付で自分の膝を指でなぞっていた。<br />
<br />
「以前、この園にお子さんを通わせていた方から聞いたのですが、障害児と一緒になった、とのことで、それが子どもによかったとか」<br />
<br />
「ええ、障害のあるお子さんをお預かりしたことも何度もあります。障害のある子もそうでない子も関係なく、一緒に遊んだり生活したりすることが、どちらにとっても良い影響を生むんです」<br />
<br />
わたしは膝を指でこすっている子を再び見た。今や彼は身を縮こまらせて自分の顎で膝をぐりぐりやっていた。<br />
<br />
「うちの子にも、早くから、なんというか、障害についての教育とか経験をさせたいと思っていまして。そういう経験があると心のやさしい子になるでしょう。犬を飼うのと同じで! で、今も園にそういう子がいるんでしょうか?」<br />
<br />
「いえ、今はそうした子はお預かりしていません」<br />
<br />
「ああ、それは!」 さすがに、わたしは「残念!」と口に出すことはしなかった。だが、わが子の教育を真剣に考える父として次の言葉を我慢することはできなかった。<br />
<br />
「で、どうでしょう、あそこでさっきからボーッとして膝をいじっている子、あの子なんて、ちょっと有望じゃないでしょうか、あともうひと押し、ガツーンとやっちゃえば」</div>熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-90593135494871578382012-01-02T22:50:00.003+09:002013-06-21T11:34:56.737+09:00SF未満<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
人口70億は確かに多い。<br />
<br />
だが、人類による銀河系征服のきっかけとなるには、まだまだ少なすぎる。</div>
熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-456650630511936102012-01-01T23:28:00.002+09:002012-01-01T23:28:47.131+09:00一日を最後の日のように<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
震災以後、彼は生きる態度を変えた。<br />
<br />
人間の弱さ、儚さ。そして、それにもかかわらず生きようとする人間の尊さ。<br />
<br />
「俺の命もいつあんな風に失われてしまってもおかしくないのだ」<br />
<br />
今日この日が自分の最後の一日かもしれない、そんな気持ちで必死になって生きよう。彼は固く心に誓った。<br />
<br />
彼は自分の人生を振り返った。犯した罪や不和、いさかい、過ちにまみれた人生。<br />
<br />
「孤立や分断ではなく、和解と融合によって生を終えたい」<br />
<br />
憎んだり憎まれたりした人々、裏切ったり裏切られた人々、誤解を互いに放置したままの人々、しかるべき謝罪をしなかった人々。これらの名前をすべて書き出した。膨大なリストになった。<br />
<br />
彼はそのすべてに電話や手紙で連絡を取り、ただ謙虚に許しを乞うた。時には会いに行ったりした。一日仕事だった。しかもこれは毎日やらなくてはならなかった。「人生最後の日のメニューが日替わりであってはならん」 これが彼の口癖だった。もっとも、誰一人、その意味は理解できなかったのだが(このわたしにも)。ともかく、今日この日が自分の最後かと思うと、どうしても許しを乞わずにはいられないのだ。<br />
<br />
また同時に、彼にとっていかなる出会いもかけがえのない貴重なもののように思えてきた。外に出ると、見かける人すべてがいとおしくてたまらない。<br />
<br />
「俺はどんな人との触れ合いもひと時も逃したくない、一期一会に徹して死を迎えたい」<br />
<br />
そんなわけで、街のあちこちで必死の形相、決意の覚悟で人に声をかける彼の姿が見かけられるようになった。<br />
<br />
彼がこんな生き方を始めてから、一週間が過ぎ、一月が過ぎ、一年が過ぎ、一〇年、二〇年と過ぎた。<br />
<br />
今では、街中の人が「彼の最後の日が今日来ればいいのに」と思ってる。</div>熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com1tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-88637583470945446562011-09-30T15:08:00.000+09:002011-09-30T15:08:15.130+09:00尖閣諸島<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
<div style="text-align: center;">
<span style="font-size: large;">国策捜査を許すな! 売国警視庁にNO! </span></div>
<br />
<div style="text-align: center;">
吉田茂治さんを支援する会</div>
<br />
国を憂い、日本民族の誇りのために活動する青年、吉田茂治さんはある日突然、身に覚えのない罪で警察に逮捕されました。<br />
<br />
容疑は痴漢。2011年9月8日午後7時、帰途につく人びとを満載した東急目蒲線でのことでした。<br />
<br />
警察は吉田さんが当初から否認していたにもかかわらず、犯人扱いをし、むりやり警察署に拉致しました。そして、暴力的な取り調べにより、彼が犯行を行ったという調書を捏造したのです。<br />
<br />
わたしたちは吉田さんの逮捕のニュースに驚愕しました。わたしたちの知る吉田さんは、日本民族の誇りを守るために一生懸命働く素晴らしい青年でした。半島人ならともかく、サムライ魂を持った青年がこのような破廉恥な事件など起こすはずがない、というのがわたしたちの直感でした。<br />
<br />
そして、吉田さんに面会をし、その話を聞くにつれ、ますますわたしたちは彼の無罪を確信し、それと同時にこの「事件」そのものが、ひとりの愛国者を貶め、破滅させるために仕組まれた罠であることをはっきりと突き止めたのでした。<br />
<br />
警察は吉田さんの愛国心を歪曲し、踏みにじり、あざ笑ったばかりでなく、この事件を民主党売国奴政権の都合のいいように利用しようとしているのです。<br />
<br />
わたしたちは日本民族に対するこの裏切り、おぞましい自虐を絶対に許すことはできません。<br />
<br />
わたしたちはここで事件の真相を明らかにしようと思います。これをお読みになればみなさんも吉田さんが「事件」をおこしたどころか、真に愛国的かつ英雄的な行為に身を捧げたということがおわかりいただけるでしょう。<br />
<br />
事件はその猛烈な反韓流デモにより吉田さんが朝鮮人の憎しみを買ったことに由来します。生来の悪質ハッカーである連中はグーグル社の韓国人社員と示し合わせて卑劣極まりない攻撃を仕掛けてきたのです。<br />
<br />
きゃつばらはGoogle Earthのプログラムを書き換え、地図に混乱を生じさせ、吉田さんのお尻が尖閣諸島として世界中に表示されるようにしてしまったのです。<br />
<br />
何億人もの中国人が吉田さんのお尻にロックオンしました! 中には日本にやってきて、吉田さんのお尻を奪い取ろうとするものまで現れる始末でした。<br />
<br />
ですが、吉田さんのお尻は日本固有の領土です!<br />
<br />
吉田さんは必死になってお尻を守りました! 上陸しようとする中国人どもを鬼神さながらに蹴散らしました。あるときなどは数十人の中国人にもみくちゃにされ、ついにはお尻もこれまでかと思われたとき、尻の穴から吹き出てきた不思議な神風がモンゴル野郎を失神させたことだってありました。<br />
<br />
しかし、憎いのは朝鮮人どもです。連中、高みの見物を決め込んでお尻の攻防を嘲笑っていました。しかもそれに飽きたらず、さらなる過激な攻撃を予告してきたのです。<br />
<br />
日本人の尻を無差別にカダフィ大佐の隠れ家として表示するというのです!<br />
<br />
多国籍軍の空爆に持ちこたえることのできるお尻がこの日本にいったいいくつあるというのでしょうか?<br />
<br />
まさに日本の尻の危機です! 未曾有の国難です! 吉田さんはこの危機にひとりで立ち向かいました!<br />
<br />
「ぼくは反日勢力の企みを阻止するために、Google Earthを手がかりにカダフィの隠れ家に仕立て上げられた尻を突き止め、無我夢中でしがみついたのです! 愛国者なら当然の行為です。武士道です。サムライ精神です」<br />
<br />
しかし、吉田さんは人びとに取り押さえられ、警察に乱暴に引き渡されました。そして、不当な国策捜査により彼は痴漢の濡れ衣を着せられたのでした。これが日本民族を破滅させようとしている反日勢力の汚いやり口なのです。 <br />
<br />
獄中の彼の叫びを聞いてください。<br />
<br />
「ぼくは天地神明に誓って潔白です。国を愛することが罪なのでしょうか? 民族の誇りを持つことが罪なのでしょうか? 我が身の危険を省みずお尻に手を伸ばすことがいったいなんの罪にあたるのでしょうか? ぼくは警察官に何度もそう尋ねましたが、彼らは何一つ答えてはくれませんでした」</div>
熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-84496669485560416132011-09-30T01:13:00.000+09:002011-10-01T05:56:49.343+09:00バカへの扉(並行世界)<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
2011年<br />
治癒不可能なバカが発見される。「バカは死ななきゃ治らない」がいよいよ現実のものに。<br />
<br />
2012年<br />
医学博士酒井洋一、治癒不可能なバカを冷凍睡眠状態にし、バカの治療が可能な未来に託すプロジェクトを政府に提案。プロジェクト、国会で承認され、「バカ・フォー・ザ・フューチャー(BFF)計画」と命名される。総合責任者に酒井就任。<br />
<br />
2013年<br />
1月1日、BFF計画始動。冷凍睡眠カプセルの開発進む。<br />
<br />
2014年<br />
冷凍睡眠カプセルが実用化。未来の医療でバカの治療を希望するバカの募集にバカな応募が殺到。6ヶ月に及ぶ厳正な審査により、5000人の選りすぐりのバカが合格。<br />
<br />
2015年<br />
1月4日、5000人のバカ、冷凍睡眠に入る。<br />
<br />
1月5日、5000人のバカ、寒くて目が覚める。</div>
熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-47570495868975231502011-09-29T10:31:00.000+09:002011-09-29T10:31:08.342+09:00シングル・ファンタジー<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
これはダブルといってもダメなほうのダブルじゃねえの、そう思いました。1980年のことです。<br />
<br />
だって、ジョンとヨーコの曲が交互に入ってるんですよ。片っぽはどう考えてもいらないじゃないですか。<br />
<br />
ちなみにいいほうのダブルとは、もちろんマックのダブルチーズバーガーです。<br />
<br />
それはともかく、当時はまだレコード盤の時代でした。わたしはヨーコの歌が聞きたくなかったので、ジョンの歌が終わるたびにターン・テーブルに飛んでいって、大急ぎで針を動かしたものでした。ですが、そのせいでレコードがすっかり傷だらけになってしまいました。<br />
<br />
これじゃダメだってんで、カセットテープに一曲とばしで録音したのですが、やったことがある方ならおわかりのように、それもずいぶんと面倒くさい作業でした。しかも、録音の一時停止ボタンを押すタイミングが難しいんです。イントロが切れたり、逆にヨーコの曲の終わりが入ってしまったり。<br />
<br />
不器用なせいもあるのですが、ジョンの曲だけで満足のいくテープを作ることは結局できませんでした(ウォズに頼めばよかったかもしれません。ああいうの得意そうですから)。<br />
<br />
ですが、この苦い経験がわたしに風変わりなアイディアをもたらしました。それは、アルバムに入っている曲を、たとえば積み木の1つのように自由に動かせ、組み合わせ、取捨選択する、そのようなシステムを設計することができれば、ジョンの曲だけからなる「シングル・ファンタジー」など簡単に作ることができるのではないか、というものです。<br />
<br />
それからというものわたしはこの斬新なシステムの創造に没頭しました。何年もかかりました。実際に製品化されたのは2003年のことですから。そして、それ以降のことについてはみなさんもご存じの通りでしょう。<br />
<br />
わたしの製品が音楽の聴き方を革命的に変えた、とみなさんおっしゃいます。ですが、わたしはまったくそうは思いません。21世紀の音楽の楽しみ方を変えたのはわたしでもiTunesでもありません。それは、オノ・ヨーコなのです。(スティーブ・ジョブズ談)</div>
熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-91283408435625701782011-09-28T00:28:00.000+09:002011-09-28T00:29:13.251+09:00バカへの扉<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
わたしは自分のバカを治療するためにあらゆることをした。<br />
<br />
薬を飲んだ。カウンセリングに通った。手術をした。本を読んだ。セラピーを受けた。レントゲンを撮った。バカに効き目ありと聞けば、どんなことでも試した。しかし、ついに医者たちはさじを投げた。<br />
<br />
「現代の医学では、あなたのバカは治せないのです」 <br />
<br />
わたしは未来に希望を託した。冷凍睡眠状態になって、わたしのバカを治してくれるまでに医学が進歩するのを待とうというのだ。<br />
<br />
しかし、そう考えたその瞬間、わたしの目の前に、見たこともない男が現れた。彼は未来からやってきたのだと言い、「今後どんなに医学が発達しようと、あんたのバカを治療することはできないのだ」と断言した。<br />
<br />
「だから、冷凍睡眠で未来に来ようだなんて料簡を起こすのは止めてほしい。あんたがそんなことをおっぱじめたせいで、他のバカもこぞって冷凍睡眠カプセルにもぐり込んだんだぞ。おかげで未来は過去からやってきた選りすぐりのバカで溢れんばかり、もう破滅寸前なのだ!」<br />
<br />
未来人が涙ながらに懇願するので、わたしは哀れを催した。「わかりました。わたしはぬくぬくしたところでしか決して寝ないと誓います」 未来人はホッとした表情で未来に帰っていった。<br />
<br />
わたしは本当にがっかりしてしまった。わたしのバカは永遠に治癒不可能なのだ。<br />
<br />
もはやわたしには死しか残されていないように思う。バカは死ななきゃ治らない、これはまことのことだった! ああ、死ぬ間際に少しだけ賢くなった!<br />
<br />
わたしが死んだら、その亡骸を石膏で固めて医学部のある大学のどこか広々としたところに置いてくれるようお願いする。そして、台座に「医学への戒め」とだけ記して欲しいのだ・・・・・・。<br />
<br />
* * *<br />
<br />
そのように書き置いて、わたしが自殺しようとした瞬間、奇怪な影が目の前に現れた。そして、自らを冥界からの使者だと告げ、次のようにわたしに語った。「死んだってバカは治らないよ」<br />
<br />
まさに絶望の一言。だが、何とか立ち直ってみせた。バカがダメならアホならどうだ、と閃いたのだ。いまでは自分のアホの治療に奔走する日々だ。</div>
熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-56196095337605235702011-08-31T23:56:00.002+09:002011-08-31T23:58:21.688+09:00荒唐無稽文化遺産<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
<div class="ThmbSet256">
<div class="BodyTxt">
<div style="text-align: center;">
<span style="font-size: large;">ハラキリを無形文化遺産に 文化庁 来年の申請目指す </span></div>
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文化庁は日本の伝統的自決方法である切腹を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産として登録申請を行う方針を明らかにした。<br />
<br />
登録に向けた準備として、有識者や切腹経験者による推進委員会が来月早々にも組織される。同委員会では、切腹の歴史、作法などを取りまとめ、日本独特のハラキリの美を世界にアピールする予定だ。<br />
<br />
今回の決定に切腹関係者は一様に喜びを隠せない。<br />
<br />
切腹に関する啓蒙活動で知られる高田徳治さんは「新渡戸稲造がすでに指摘しているように、切腹は日本の誇るべき文化であり今回の登録申請の動きは遅すぎるぐらい。これをきっかけに小学校でも愛国心とともに切腹の作法も教えられるようになれば」と期待をかける。<br />
<br />
また切腹の無形文化遺産登録を長年訴えてきたNPO法人報国忠誠会の原田太刀夫総帥も「登録申請時には本場のハラキリをユネスコのみなさんに是非ともご披露したい」と意気込みを語り、早くもヒートアップ気味だ。 </div>
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文化庁は日本料理の無形文化遺産登録を目指すなど国家戦略として日本のブランド力向上を推進している。</div>
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<br /></div>
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(写真)介錯はお・ま・か・せ!=切腹の作法を学ぶ子どもたち(高田徳治さん提供)</div>
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熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-50279517455464866142011-08-31T12:33:00.002+09:002011-09-28T00:33:14.271+09:00『存在と反省』<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
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<b>★★★★★ ポストポストモダンの『方法序説』 2011/8/31</b><br />
<b>By 生涯一哲学徒 レビュー対象商品:存在と反省 (フランス新思想叢書) (ハードカバー) </b><br />
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現代フランス思想の最前線に立つ哲学者、ジャック・バラン氏の主著の待望の翻訳。主体の危機の時代にあって、新たな主体の確立を目論む著者は、その特異な主体論の基礎に「反省」を据える。しかし、その「反省」がカルテシアン流認識論の上に立つものではなく、多分にエシカルなものとして構想されているのが、氏の新味といえる。<br />
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日本の読者にとって興味深いのは、ここで哲学者がこの倫理的なréflexion を論ずるのに、日本語の「懲りる」を引き合いに出していることだ。日本で教鞭をとったことのある氏らしい議論の展開であるが、氏はこの「懲りること」こそが「大国が小国を破滅させる戦争と災厄の時代」を繰り返さないための新たな主体の「決意」なのであると訴える。そして、氏がデカルトに倣って行う次のような主体定義は、本書の白眉とも言える。「Coriro, ergo sum(我懲りる、ゆえに我あり)」 。<br />
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しかしながら、「反省」一辺倒では前には進まないのはもちろんのこと。本書の後半の議論は、この「懲りる」という認識論的手続きを経て、いかに新たな主体を生成していくかということに費やされる。氏は「懲りること」ことの対義語は「懲りないこと」ではない、それは「懲りることから癒されること」であると喝破する。これは端的にいえば、主体とは「懲りること」と「癒されること」との絶えざる弁証法的緊張関係においてのみ存在しうるということであるが、同時にこの緊張関係を維持する装置が担保されていなくてはならない。ここで哲学者はジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリの「機械」概念を援用しつつ結論に到達する。新たな主体の確立には「懲りを癒す機械」が必要なのだ、と。<br />
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熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-24885449968908389192011-08-31T10:44:00.000+09:002013-06-21T11:34:41.390+09:00タイムトラベラー<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
未来から過去へと時をさかのぼる永遠の旅人から見れば、人はみな激ヤセ。体重が気になる時は、この言葉を思い出したまえ。</div>
熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-4625963666097339428.post-23967643814354719432011-08-31T10:41:00.001+09:002013-06-21T11:34:26.512+09:00激励<div dir="ltr" style="text-align: left;" trbidi="on">
モテすぎて殺された人は枚挙にいとまはないが、モテなさすぎて殺された人はいない。君に何かあったら、この言葉を思い出したまえ。</div>
熊切 拓http://www.blogger.com/profile/16408784598037201370noreply@blogger.com0