序言

後漢の人、阮由は毛人の背に跨してついに仙境に至り、梁の人、赫燵和尚は野人の言葉によって極楽浄土の実相を大悟した。このように近辺に侍する異形の輩がすなわち異郷の案内と転ずるためしは、古来枚挙に暇なく、それだけでも一巻の書を成すに足る。

しかし、合理実証を旨とする今の世の騒がしさは、こうした有益な怪物たちにとってはなんとも居心地の悪いものとみえる。ツチノコ、ヒバゴンはいうに及ばず、ヒマラヤのイエティ、アラスカのサスクワッチにしても、とうの昔に人の世を捨て去り、いまでは噂のなかにその近況をわずかに窺い知るべきのみとなった。

となると、今の世に異境への道しるべを求める者は、これらの異人たちをせめて文の上で飼いならすことで、その願いを果たそうと努めるほかないのではあるまいか。この雑文集の表題を「イエティ・サスクワッチ・マイペット」ともって名付ける所以である。