2010年8月29日日曜日

ユダヤの王様ゲーム

《遊び方》

①居酒屋やカラオケに気の合う仲間で集まろう。

②くじ引きをしよう。端に印のついた割り箸を引いた人が今日の王様だ。

③さっそく王様に十字架を背負わせて、刑場に連れて行こう。

④酸っぱい葡萄酒を注文して飲ませよう。

⑤「ユダヤの王様ばんざあい」と揶揄しよう。王様の額に「これはユダヤの王」という札を付けるのを忘れずに。 茨の冠があれば、被らせること。

⑥その他、王様に好きなだけイタズラし放題!

⑦最後に必ず十字架につけて殺そう。

⑧王様が3日後に復活しちゃう前にさっさと退散すること。

⑨次の王様を決めよう。

2010年8月28日土曜日

エクリチュール

「まつたくなんてことをするのだ。かわいさうぢゃないか」

すっかりホカホカになって脱衣場を出るやいなや、男がそう怒鳴ったのが聞こえた。わたしはのれんをくぐり、入り口のカウンターを通り過ぎようとした。

男はカウンターの中の従業員を睨みつけていた。彼の髪はわたしのと同じく濡れていたが、温泉内で彼を見かけた記憶はなかった。

「君、あれを読んでみたまへ」

彼は壁の張り紙を指差した。そこには「刺青の方は入浴は固くお断りします」と書かれていた。

「嗚呼! 君が不注意だったばっかりに、渠はとんだ晒し者になつてしまつた!」

従業員の年配の女性はまったく困惑しきっていて、男がカウンターを両手で叩いて叫ぶと、怯えた表情を浮かべた。「どうしたらよいだらう! 此は渠の名誉の問題なのだ。君はすつかり渠を破滅させてしまつた!」

そのとき、日焼けしたいかつい男がのれんをくぐって出てきた。わたしは彼が刺青を入れた裸体を念入りに洗っていたのを浴場で見ていた。

怒れる男はこの刺青男を見るや表情を和らげ、声をかけた。「大丈夫かね? 僕は君のことが心配でたまらなかつたんです!」

そして、再び従業員のほうを向き、刺青男を手で指し示しながらいった。

「君が此のお方に刺青をした人は入浴をしてはいけないということをちやんと教えなかつたから、此の人は知らずにそのまま入つてしまつたのだ。全身にびっしり描かれた陳腐なサンボリスムを丸出しにして! 龍だの鯉だの牡丹だの桜だのの見かけ倒しの幻覚をさらけ出して! 肉体による無知蒙昧な原始的な信仰告白を垂れ流して! わたしはもう見てられなかつた。だって、かわいさうじゃないか。 哀れぢゃないか。いいかね、きみはこの哀れで、すでに身に辱め受けた人間にさらなる侮辱を与へたのだ!」

刺青男が威圧感たっぷりに男のほうに近付いてきた。男は振り向いて任せろとばかりにいった。「大丈夫、大丈夫、安心したまへ。ここは僕が何とかするから!」

だが、その言葉が終わらぬうちに、男の血が件の張り紙の上にまで飛び散った。

2010年8月13日金曜日

追悼

ひょんなことから人を殺しましたのが18の頃のことでございます。たまたま盗みに入ったところを見とがめられましてね、詮方なく、木刀でポカリ、紐で首根っこをキュウ、とやったわけでございます。立派ななりをしたおじいさんでした。

殺したときはまったく後先なんか考えずに、無我夢中で。ま、これが若さというものでしょう。ですが、自分でいうのもなんですが、根が素直ときている。3日目ぐらいからでしょうか、どうも夢見が悪い。

ああ、じいさん、すまないことをした、なんて柄にもなく悔やみ出したわけで。お恥ずかしい話、いっそのこと自首したら楽になるんじゃあ、だなんてヤケを起こしかけたこともありました。ですが、それじゃあ、じいさんも浮かばれまい、てな気もしてたんでございます。

どうもうまくお話しできないんですが、じいさんばっかりこんな目にあうのは、あんまりにも哀れ、とでも申しましょうか。ま、近頃みなさんがよくおっしゃる「誰それの死を無駄にするな」というのに近いのかもしれませんが、じいさんだけで終わらせてはいかん、そんな殊勝な心持ちになったわけで。

ええ、それからです、ひっきりなしに人殺しをやるようになったのは・・・・・・。

2010年8月3日火曜日

祈られて

牧師を名乗るその男はわたしの目の前に突然現れ、こう語った。

「わたしたちの教会では、哀れなあなたのためにひそかに祈り続けてまいりました。あなたが満ち足りて豊かな生活を送れるように、真心を込めて、朝も夜も、雨の日も雪の日も欠かさず、年末年始には夜を徹してまで、ひたすらに信徒一同心をひとつにして祈ってきたのです。

ですが、もう我慢できません。もう堪忍袋の緒が切れました。あなたはどうしてそうみすぼらしいままなのです? わたしたちがあなたが立派な服を着るようにひたすら祈ったというのに。あなたはどうしてそうショボくれたままなのです? あなたが喜びに溢れて暮らせるよう、神様に繰り返し繰り返し祈ってきたというのに。

これではわたしたちがあまりにもかわいそうです。わたしたちはみなあなたに失望しています。あなたはわたしたちの尊い祈りをすっかり無駄にしてしまったのです。ああ、こんな恩知らずにではなく、もっと他の貧乏人のために祈っていればよかった! これがわたしたち敬虔なる信徒の嘘偽りのない気持ちなのです。

わたしは、牧師として教会の善良な信徒たちのために、要求します。わたしたちがあなたのために祈った祈りをすべて耳を揃えてただちに返却してください、と!」

これこそがわたしの人生をめちゃくちゃにした「お祈りを返せ裁判」のはじまりだったのである。