2011年7月30日土曜日

遺書教室(6)

舞茸が生える秘密の場所までは、山の中を一時間ほど歩かなければならない。たいした距離ではないようだが、険しい斜面が続くので、四反田のような巨漢には容易ではない。

はたして二〇分も歩かぬうちに音を上げだした。「休憩! 休憩!」

「まだ半分も来ていませんよ。日が暮れる前に帰ってこなくちゃならないんで、休む暇なんてありません」

すると、しばらくは黙って付いてきたが、やがてぶつぶつ言い出し、ついには座り込んでしまった。

そこで「もう先に行けないんなら、ここで引き返しましょう」というと、「ははーん! さては教えるのが惜しくなったな! わたしを疲れさせて諦めさせようっていうんだ!」と、すごい目つきで睨む。

わたしは必死になって否定したが、そうすればするだけ彼の疑心暗鬼は募っていくようだった。

「じゃあ、こうしましょう。ここで待っていてください。わたしが一人で採ってくるから」

これはまったく逆効果だった。自分が置き去りにされると思ったのだ。「人殺し! 人殺し!」と喚きだした。「狼の餌食にするつもりだな!」 巨体を振るわせてわたしを罵りはじめた。「死ね!」ともいった。

わたしもできればその期待に応えたかった。だが、遺書なしでは!

わたしは周囲の木の根元を探し始めた。もしかしたら、舞茸が生えてないか、と思ったのだ。木々の根元の落ち葉や枯れ枝をそっと払う。すると何かキノコらしきものが姿を現す。わたしが顔を近づけて調べようとしたそのとき、四反田の手が伸びて、根こそぎかっさらった! 

瞬く間に口の中に!

「わたしを騙そうったってそうはいかないんだ!」 口をもぐもぐさせながら叫ぶ。

「うまい! うまい! これぞ幻の舞茸!」 小躍りしてる。高笑いしてる。頭を激しく振り出した。わけの分からないことを口走ってる。よだれを流しはじめた。全身が痙攣してる。

毒キノコだ!

それからほぼ二時間のあいだに、先生はすべての生命力を燃やし尽くした。祝祭の如き舞踏、嵐のような笑い、恩寵に似た涙が、先生の命を縮めたのだ。キノコに愛されし男の辿る末路だ。

先生は今や息も絶え絶え、わたしの目の前にぐったりと横たわっていた。ときおり、痙攣が彼の身体を飛び上がらせる。わたしは憎しみに燃える。キノコめ! こんなになってまで、まだこの人を踊らせようとするのか・・・・・・。

だが先生はやさしくわたしを見つめている。何かをいおうとするが、もはや声も出ない。ただ指を持ち上げ、自分の胸ポケットを指すのみ。わたしはそこから折りたたまれた白封筒を取り出す。わたしの目からどっと涙が溢れ出る。先生は微笑みながら目を閉じた。

そこまでの覚悟で! わたしはむせび泣く。先生は死ぬ覚悟でこの山にわたしとともにやってきたのだ! そこまでしてわたしを教え導こうとしていてくれたのだ。わたしは先生の残した封筒を見つめて誓う。きっと素晴らしい遺書を書いて死にます、と。

わたしは封筒を開ける。先生が残した最後のレッスン、血で贖われた正真正銘の遺書を見るために。

中は領収書! 受講料の!

と、どやどや誰かがやってきた。あまりの騒がしさに村人たちがやってきたのだ。わたしは慌てて身を隠す。はて天狗どんの宴会か? いや、イノシシが発情してんだ! みんな口々に言い合ってる。だが、すぐに四反田に気がつく。ただちに救助隊が呼ばれる! 担架に乗せるだけでも大仕事だ。不意に擦れた叫び声。「舞茸!」 

野郎め、生きてやがった。「舞茸! 舞茸!」 わたしは一目散に逃げ出した。一気に山を駆け下りた。もう遺書なんかバッカらしくて! こういった手合いがのうのうと生きているのにしおしおと自殺するなんて、まったくもって自殺行為にちがいない。

2011年7月29日金曜日

遺書教室(5)

1時間後、わたしたちは再び教室にいた。

汗まみれの四反田は、腹を突き出して椅子の背にもたれかかっている。呼吸も苦しそうだ。替え玉を5回もすれば当然だ。

わたしは遺書の最初の一文を仕上げ、読み上げる。

「『父上様母上様 新宿宮本屋の元祖とんとこラーメン金玉のせ(ネギ、高菜トッピング)美味しうございました。』」

「麺!」と注意が入る。忘れてた。

「『父上様母上様 新宿宮本屋の元祖とんとこラーメン金玉のせ(ネギ、高菜トッピング、麺バリカタ)美味しうございました。』」

「いい、いい、いいですよ! じゃあ次に行きましょう。『干し柿 もちも美味しうございました。』の「干し柿」の部分です。ここもあなたが本当に美味しいと思ったものを書くんです」

わたしはしばらく考えた末に言った。「簾山の舞茸」

講師が息を呑むのが聞こえた。「あの・・・・・・幻の!」

「確かに父はそう言ってました」

「野生の舞茸自体、滅多に見かけるものではないが、簾山の舞茸ときたら、それどころでない!」 四反田はメモを取り出した。

「わたしの記録を見ましょう。その風味たるや、ひとたび口に含むやたちまちにして幽玄の境地に達し、あたかも天地の精を飲み込むがごとし、まさに空前絶後の食材というべし、と。しかも、心身を浄め、長寿の効あり、とも。オススメの食べ方は、炭火焼きかグラタンで。おっなんと、バブル絶頂期に銀座の高級料亭で音楽プロデューサーがひとかけら食したという記録があるきりだ。しかも高級外車ほどの値段で!」

「本当に美味しいキノコでしたが、それほど高いものとは! なにしろ、父の実家が簾山の麓にあり、いくらでも採れる場所を昔から知っているのです。もっとも、その場所は父とわたしだけの秘密なのですが」

わたしが話し終える前に四反田は立ち上がっていた。「ああ! そんな大それた秘密をあの世に持っていこうとは、あなたもまったく食えない人だ! さあ、ぐずぐずしている暇はない、行きましょう! 遺書のためには、とことんやる、これがわたしのモットーなんです!」 

そして、その数時間後、わたしたちは簾山山中で遭難しかけていたのである。

2011年7月28日木曜日

遺書教室(4)

「なるほど!」 わたしは感歎した。「こんな遺書が書ければ死んでも悔いはありません!」

「でしょう! さあ、さっそくはじめましょう。まず1行目をあなたなりに書き換えて見せてください」

わたしは紙を見つめた。

「先生、・・・・・・三日とろろとはなんでしょう」

「三日とろろとは福島の風習で、お正月三が日の間にとろろを食べて無事息災を祈るというものです」

「4日目に食べてもよいのでしょうか」

「とろろはいつ食べてもいいかと。ですが、それでは三日とろろとは言えないのでは」

「できました!」

「どれ」

「『父上様母上様 四日とろろ美味しうございました。干し柿 もちも美味しうございました。』」

「四日とろろとは?」

「三日より四日のほうが多いので、こっちの方がいい遺書になるかと・・・・・・」

「いや、ちゃんとあるものを書いてください!」

「では、とろろそばでは?」

「もし、あなたが本当においしいと思ったなら、それでもいいでしょう」

「実はわたし、とろろが苦手で。口が痒くなるんです」

「本当のこと、事実、真実を書いてください! あなたがご両親から食べさせてもらったもので一等おいしかったもの、一番記憶に残っているものを書くのです」

わたしはしばらく考えた。 1年ほど前、両親が上京してきたときに、新宿のラーメン屋に行ったことを思いだした。

「『父上様母上様 ラーメン美味しうございました。』」

「悪くないですよ。ですが、どんなラーメンなんです」

「とんこつです」

「お店のですか」

「ええ、新宿の宮本屋で」

「宮本屋! 知る人ぞ知る隠れた名店! 取材お断りのため、どこを見ても地図が載っていないという!」

「ええ、でも近所なので知ってるんです」

「おお! で、お味の方は?」

「美味しうございました」

「いや、ダメダメ! もっとちゃんと教えてください。スープはどうだったんです。コラーゲンたっぷりで膜ができるほど? それともさらりとしているがミルクのように濃厚?」

「どちらかというと、ミルクですか」

「で、背脂は?」

「ありませんでした」

「いいぞ! 背脂に頼りすぎる店が多すぎるのには辟易してたんだ!」 先生、いつの間にかメモを取り出してぱらぱらめくっている。「で、麺は? メモには富岡製麺から直送と書いてあるが、そんなことはありえないはずなんだ。あそこはもう新規は受け入れないというから」

「そこまではわかりません」 とんだラーメン・マニア。

「こりゃもうじっとしてはいられませんな。さっそく行きましょう!」

「遺書のほうは?」

「良い遺書というものは真実が記されていなければならないのです。それを確証するのが、講師たるわたしの役目です!」

四反田はよだれを拭きながらきっぱりと答えた。

遺書教室(3)

遺書教室は都内にあった。最寄り駅は四谷と九段下だ。 四つ木と九品仏からも行けるが少々歩く。生田からは遠くて全然行かれない。

講師には死神みたいな男を想像していた。だが、現れたのは太った大男で、フウフウいいながらわたしを小さな部屋に招き入れた。そこには小さなデスクと椅子が二脚あるきりだ。

「今日一日おつきあいいただく講師の四反田と申します。講義を始める前に、まず受講料2万円の方を先にお納めいただきたいのですが。前払いというわけで、ま、取り損ねが多いわけなんで」

金を払う前に死なれちゃ困るってか。わたしから金を受け取ると、四反田は講義をはじめた。

「あらかじめ申し上げておきますが、オリジナリティがあって歴史に残るような遺書を書くためには、本校のコースをしっかり受けていただかなければダメです。これだけは強調しておきましょう。ですから、ここでお教えするのは、ま、ほんの遺書のまねごと、というわけで。ところで、以前遺書をお書きになったことはありますか?」

わたしは、友人から酷評を受けた例の遺書を差し出す。

講師一読して「はっ、これは、なんというか。わたしたちに対する挑戦状とでもいいますか」

「やっぱり、ダメですか」

「なかなかこれでは死ねないと申しましょうか。これ自体は万死に値すると思うのですが・・・・・・」

人から死ねといわれて落ち込まない者がいるだろうか。しゅんとしたわたしをみて講師は哀れに思ったらしい。

「でも、これは最悪ではありませんよ! もっとひどいのなんていくらでもあるんです。遺書として鬼への推薦状を書いた者だっています」

「鬼への推薦状!」

「ええ、地獄の鬼に宛てて自分がいかに地獄の鬼にふさわしいか、切々と記した者がいたのです」

「それではもはや遺書とは申せますまい。きっと就職できないのを苦にして自殺したんでしょうな」

「いえ、存命です。諦めたのです、自分は自殺に向いていないと」

これは警告だった。授業に身を入れねば!

「さて、本当に素晴らしい遺書を書くのは難しいと申しましたが、それは遺書が詩であるからです。人が長い年月の修練を経てようやく詩人となるように、遺書を書く人、すなわち遺書人となるのにもそれ相応の努力を払わねばならないのです。ですが、この目まぐるしい現代社会において、そんな悠長なことは言ってられない、早く遺書を書いておさらばしたい、という方がおられるのもまた事実です。わたしたちはこうした傾向に必ずしも賛成する者ではありませんが、それでも時代のニーズに誠実に向き合うのもまた義務であると感じている次第で。ま、そこでこうした方々にお勧めしているのが、歴史上著名な遺書をフォーマットとして利用し、それをパーソナライズすることによって、遺書としての使用に最低限耐えるような作品を仕上げるという、当学校が独自に編み出したメソッドなのです」

なんだ、有名な遺書をパクるのか。

「もちろん、どのような遺書をフォーマットとして選ぶか、そして、どの程度のパーソナライズを施すかによって、難易度はまったく異なります。わたしの見るところ、あなたにはこの遺書がぴったりなようです」

と講師はファイルから紙一枚を抜き出してわたしに手渡した。「これは日本でもっとも有名な遺書のひとつであり、またもっとも心動かすもののひとつです。これをあなたらしく書き換えてみることこそが今日一日の課題なのです」

その紙には次のように記されていた。

****
父上様母上様 三日とろろ美味しうございました。干し柿 もちも美味しうございました。
敏雄兄姉上様 おすし美味しうございました。
勝美兄姉上様 ブドウ酒 リンゴ美味しうございました。
巌兄姉上様 しそめし 南ばんづけ美味しうございました。・・・・・・
****

2011年7月27日水曜日

遺書教室(2)

電話して分かったのは、遺書教室には2年コースしかないということだった。

しかも相当みっちり学ばなくてはならん。こんな具合だ。

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【1年目〜教養課程】
遺書をめぐる文化を徹底的に学ぶことで、遺書に関する基礎的な教養をしっかり身につける。

《学ぶこと》遺書入門(遺書と遺言の違い)/遺書学原論/遺書史/遺書文化論/遺書批評基礎論/遺書の人類学/世界の遺書研究/日本史遺書研究/IT遺書論/未来の遺書

【2年目〜実践課程】
遺書の書き方を体系的に学び、歴史に残る名遺書を書くための実践力を身につける。学生には卒業制作として実際に遺書を書き、提出してもらう。

《学ぶこと》
遺書の内容・スタイル・書式・長さ/遺書の文字・書体/遺書の素材/遺書の置き場所/緊急時の遺書作成法

【特別コース〜もっと踏み込んで遺書について学びたい方のための特別講座】

遺書の保存法/遺書を用いた復讐法/遺書とスポーツ

【遺書コンシェルジェ・コース〜遺書を仕事に!】
上記課程を全て修了した方のみのための1年間のコース。遺書を用いた企業活性化、遺書関連訴訟事例など、遺書ビジネスのプロのための講座。
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わたしは噛みついた! 「こんな悠長に構えている暇はないのです。いますぐに、でもなんです」

遺書教室の男は言った。「みなさん、そうおっしゃいますが、結果的には満足してくださいます。みなさん、それぞれこだわりの遺書を片手にわたしたちの教室を旅立っていきます!」

「ですが、通っている間に旅立ってしまったらどうするんです! ろくな遺書一枚書けずに死んでしまったら! それは誰が責任を取ってくれるのですか!」

「講師陣が総力を挙げて、遺書を代筆させていただきます」

「そんなんじゃダメ! ああ、もういい!」 わたしは声を荒げた。「死んでやる、死んでやる! 遺書教室のせいで遺書が書けなかった、と遺書を書いて死んでやる!」

「ああ、ああ、分かりました! 分かりました! わたしが特別にあなたをレッスンしましょう。1日で素敵な遺書が書けるはずですよ!」

「そうこなくっちゃ!」

人間死ぬ気になれば何でもできるもんだ。

2011年7月11日月曜日

遺書教室(1)

自殺しようと思って遺書を書いた。書いたら、これでよいのか不安になった。それで、友人に見てもらおうとメールした。

すぐさま友人から電話がかかってきた。怒っている。ふざけるな、とも言った。早まるな、とも。

「もっとましな遺書書けよ!」

ダメ出しだ。

ちなみにわたしが書いた遺書はこんなだ。

***
自殺のお知らせ

拝啓
梅雨も明け、本格的な夏を迎えましたが、皆様お元気にお過ごしでしょうか。
さて、このたび地獄へ転居いたしました。
お近くにお越しの節にはどうぞお気軽にお立ち寄り下さい。
まずはご挨拶かたがたお知らせ申し上げます。
敬具

頑張ろうニッポン! 復興への祈りを込めて!
***

「これじゃ引越のお知らせじゃねえか。時候の挨拶なんかイラネ」

「失礼があっちゃまずいだろ」

「しかも、復興なんたらってのはなんだ?」

「何をするにつけこの一文さえあれば角が立つまいと思ってネ」

「思ってネ、じゃねえ。お前、これから自殺しようって人間が、失礼だの角が立つのだの気にしてどうすんだ」

全否定。わたしは劣等感を刺激され取り乱す。「もういい! 遺書なんかもう書かない! 遺書なしで死んでやる! 後で遺書が読みたいって言っても知らないぞ!」

「まあまあ、落ち着け。俺がいいとこ教えてやる。遺書の書き方を教えてくれる遺書教室だ」

「それはいい! これで安心して死ねるというもの。じゃあ、メールでURL送って」

「ばか、そんなヤバいとこ、ネットで宣伝してるもんか。裏2ちゃんねるに忍び込んでようやく電話番号だけ見つけたんだ。教えてやる、メモの準備はいいか、東京03」

「東京はいらないよ。03だけで」

「うるさい。03−XXXX-4229。下4桁は覚えやすいぞ。シニニコイ」

2011年7月10日日曜日

ルター三世

俺の名はルター三世。かの名高き宗教者、ルターの孫だ。世界中のビショップが俺に血眼。ところが、これが捕まらないんだなぁ。ま、自分で言うのはなんだけど、狙った贖宥状はかならず破る、神出鬼没の大神学者。それがこの俺、ルター三世だ。

イワン・ダイスキー。俺の相棒。早打ち0.3秒のプロフェッショナル、クールな鞭打ち教徒。そのうえ、義理堅く、頼りになる男。

13代目アリー。いにしえの正統カリフ、アリー・イブン・アビー・ターリブの末裔。暗殺術の達人。なんでもシーア派とスンニー派に真っ二つにしちまう怒らせると怖い男。

日銭聖人。ご存じ、日蓮聖人の子孫。宗門一の腕利き僧侶。俺を折伏するのを生き甲斐とする、俺のもっとも苦手なとっつあんだ。

謎の女、峰不二子。カトリックかプロテスタントか、この俺にも分からない謎の女。いつもひどい目にあうが、憎めないんだなぁ。俺はカワイコちゃんには弱いからねぇ。

さてさて、これら一癖も二癖もある連中に囲まれて、今週はどんな宗教改革を巻き起こしてやろうかな?

2011年7月9日土曜日

無事心中

成功率100%! 噂の心中お助けキットが日本上陸!
その名も「エンドウェル2011 ver. 4.9」 !

恋人と心中をしたい! でも自分が先に死んだのに、相手が逃げたら? ・・・・・・不安!
無理心中を図ろうとして、子どもを殺したが、自分は自殺できず・・・・・・逮捕!

不況に喘ぐこのご時世、心中は今や定番の選択肢となりましたが、意外に多いのがこんな悩みを抱えた方々。でも、もうご安心ください。あなたの心中を後押しする「エンドウェル2011 ver. 4.9」 があれば、死に損、殺し損にもうサヨナラ!

あなたの大事な人を確実にあの世にエスコートいたします!

【操作は簡単!】
心中パートナーとあなたをパソコンを経由してつなぐだけ。あなたの自殺が成功するやいなや、パソコンが心中パートナーに効き目抜群の猛毒を自動注入! 逝き遅れ、逝き逃しなしの夢の心中成功キット、それが「エンドウェル2011 ver. 4.9」なのです。

【「エンドウェル2011 ver. 4.9」だけの4つの特徴】
(1)付属DVDで簡単操作!
DVDの画面の指示に従うだけで、いつでも、どこでも、誰でも、誰とでも心中に成功します。

(2)24時間カスタマーサービスであなたの「心中したいキモチ」を徹底サポート!
*サポート期間外の電話相談には料金が発生いたします。

(3)遠距離心中にも対応!
ver.4.9から遠隔地にお住まいのパートナーとの心中も可能になりました。
*ただし、インターネット環境が必要です。

(4)心中ご報告機能!
心中成功後に、お世話になった方々に自動でメールでご報告! これで「今年は喪中につき」のお葉書の手間いらず。

【ご利用者の声】 東京都 佐藤マツコさま(享年45歳)
3人の子どもを抱えてにっちもさっちも行かなくなったわたし。でも心中って難しいんじゃないかと、なかなか踏ん切りが付きませんでした。そんなときに出会ったのがエンドウェル。付属のDVDのお陰で、コンピュータ初心者のわたしにもラクラク操作。後顧の憂いなく無事心中できました! 今では子どもたちと一緒ににあの世でノンキに暮らしています。(霊界電話にて談)

【商品内容】
1)「エンドウェル2011 ver. 4.9」インストールディスク
2)「終わりよければすべてよし!エンドウェル2011チュートリアル」(付属DVD)
3)自殺成功判定センサー(USB2.0ポート対応)
4)コンピュータ制御仕様注射器(USB2.0ポート対応)
5)効き目の強い猛毒

【限定商品のご案内】
みなさまの強いご要望にお応えして、期間限定で「ファミリーパック」をご用意させていただきました。上記商品内容にコンピュータ制御仕様注射器×4とUSBハブ(4ポート)が追加されたお買い得品です。

今なら特典で「効き目のものすごく遅い猛毒」も付きます! 使い方はあなた次第!

2011年7月7日木曜日

日本のみなさんありがとう

日本のみなさん、わたしたちはみなさんの友人として、このメッセージをお送りしています。

3月11日に起きた地震と津波はまことに恐ろしいものでありました! わたしたちはこの大災害で亡くなられた方々に心から哀悼の意を捧げるとともに、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

それにしても運命とはなんと無情なのでしょうか! 運命は大地震の傷を癒すどころか、史上最悪レベルの原子力災害でもって、日本のみなさんに追い打ちをかけたのです。

原子力発電所の爆発により日本中に放射能が撒き散らされたと聞いたとき、わたしたちは非常な衝撃を受けました。そして、日本のみなさんの過酷な運命を思い、慟哭しました。

ですが、みなさんは気高く、強かった。わたしたちの目から見ればまったくの驚異といってもよいほどの忍耐力と勤勉さで、みなさんはこの最悪の事態を乗り越えようとされました。そして、今なお、ホットスポットのただ中で努力し続けていらっしゃいます。

日本のみなさんのその粘り強さに呼応するかのように、世界中である1つの声が聞かれるようになりました。反原発、脱原発を叫ぶその声は、瞬く間に地球上を覆い、いまや各国の原子力発電所を過去の遺物と化そうとしています。そうです、日本のみなさんが原子力という悪魔に懸命に立ち向かうその姿が、世界の歴史を変えたのです。みなさんはその働きを通じて、将来他の国で起こるかもしれなかった原子力事故を消滅させ、あまたの人々の生命を救ったのです。わたしたちは、日本のみなさんに心からの感謝と敬意を捧げます。

わたしたちのメディアのあるものが、福島の原発で決死の覚悟で働く人々を褒め称えて、「FUKUSHIMA50」と呼びました。ですが、日本にいる英雄は50人だけではありません。わたしたちにとっては日本に生きるすべてのみなさんもまた真の英雄なのです! 放射能に汚染された国土の中で決死の覚悟で暮らすみなさんは、そう、「FUKUSHIMA128,056,000」なのです!

福島第1原子力発電所の状況は今なお予断を許しません。日本のみなさんの必死の努力にもかかわらず、最悪の事態が訪れるかもしれません。

ですが、安心してください。日本の友人たちよ!

たとえどんな事態になろうと、わたしたちはあなた方のことを忘れません! 決して決して忘れません! 

あなた方が生きた証しを大切に保存します!

日本のみなさんが育んできた伝統、驚きに満ちた文化、繊細な言語のすべてをできる限り集め、記録し、後世に伝えることを誓います!

たとえ日本のみなさんに不測の出来事が起きようとも、みなさんはわたしたちのアーカイブで、わたしたちのライブラリで、そしてわたしたちの心の中で、永遠に生き続けるのです。

日本のみなさんがわたしたちに与えてくださった偉大な教訓は、それに値します。はるか未来の人類は、かつてこの地球に日本人という素晴らしい民族がいたということをとても誇らしく思うことでしょう!

ですから、日本のみなさん、心安らかに!そして、わたしたちがみなさんにとても感謝しているということを忘れないでください!

ありがとう、日本のみなさん、ありがとう!

抗議文(4)

罪人たちに対する鬼たちの啓発活動はまだまだ続いていました。

先ほどまで罪人を演じていた鬼が、周囲の罪人たちを恐ろしい目つきで睨みながらこのように言いました。

「さあ、みんな、考えてごらん? 劇に出てきたあの愚かな罪人はいったいどうすれば良かったのかな? どうすれば、騙されずに済んだだろうか? ほれ、君、どうだい?」

鬼はひとりの罪人を指名しました。「恥ずかしがることはないぞ! 今はシェアリングの時間だ。どんな発言だってウェルカムだ!」

ですが、罪人は答えることはできません。なぜなら、地獄のガムテで顔中をぐるぐる巻きにされていたからで、くぐもった呻き声を出すの精一杯です。鬼はこの罪人を素早く掴むと、腹のところで真っ二つに切り裂きました。

「じゃあ、そこの君はどう思う? なに、正解なんかない。ひとりひとりが自分の意見を言って、議論することが大事なのだ」

意見を求められた罪人はブルブルと震えながら、自分の口を指し示しました。舌を根こそぎ抜かれていたのでした。鬼はそれを見るやいなや、拳を振り降ろして罪人の頭をペチャンコにしました。

「君!」と次の罪人を指します。ですが、その人は両耳に溶けた鉛をたっぷり注ぎ込まれていたため、なんと言われたのかさっぱりわかりませんでした。すると鬼はその胴体から首を引っこ抜いて、ボールのように遠くに蹴飛ばしました。

鬼たちはこのようにして次々と罪人たちに意見や感想を尋ね、答えられないと見るや無惨に殺していきました。やがて、問いかけすらも省略されるようになり、単に殺戮を繰り広げているのと変わらなくなりました。

あまりのむごたらしさにわたしはめまいすら覚えました。すると彼が次のように語るの聞こえました。

「鬼たちの熱心な取り組みのおかげで、この地獄は数ある地獄の中でもトップクラスに位置しているのだ。これを見るがよい」 そういってわたしにチラシを一枚渡しました。それには次のようなまったく驚くべき事実が列挙されていたのでした。

罪人が選ぶ「怖すぎて思わず生き返ってしまった地獄」 第1位!
僧侶が説く「もっとも檀家を震え上がらせた地獄」 第1位!
冒涜者モデルが薦めるオシャレ地獄 第1位!
新橋のサラリーマンが答えた「上司を落としたい」地獄 第1位!
罪人目線に立ったコダワリ地獄 第1位!
地獄グッドデザイン賞 大賞!
OLが共感する「せつない責苦」のある地獄 第1位!
大人のカップルがときめく「隠れ家的地獄」 第1位!
年間ネット検索数 観光地部門 第1位!
沙汰が金次第でない地獄 第1位!
ベスト責苦アワード 火炙り部門 第1位! 串刺し部門 第1位! 八つ裂き部門 第1位! 
GNP(地獄総凄惨) 世界1位!
モンドセレクション 人肉部門 金賞!

「これだけの地獄を一丸となって作り上げてきたという強烈な自負心があるからこそ、鬼のいない地獄などという虚妄に対しては、鬼たちは徹底的に抗議し、これを排撃するのだ。鬼なくしてなんの地獄ぞ、これが鬼の気概といえよう」

わたしはこの言葉を聞きながらひそかに思いました。「しかし、人間を矯正するのに永遠ほどもの歳月の責め苦でもまだ足りないと考えている鬼どもが、たった一枚の抗議文で人間が考えを改めるなどと思い込むとは、まったく滑稽なことだ。責め苦一筋の責め苦バカなので、きっと常識というものを知らないに違いない」

2011年7月6日水曜日

抗議文(3)

この奇天烈なパンフレットを貪るように読んでいると、彼はわたしに告げました。

「この地獄にやってきた罪人はもれなくこの小冊子を受け取るのだ。これはよりよい地獄を目指す鬼たちの取り組みのひとつに過ぎない。さあ、来るがよい」

彼はわたしを洞窟から連れ出し、今度は大きな広場に導きました。そこでは無数の罪人たちが中央の空き地を取り囲んでいました。罪人たちはみな動くことができませんでした。なぜならあるものは鎖で縛られ、あるものは杭に打ち付けられ、またあるものは地獄特製のチクチクするガムテでがんじがらめにされ、またあるものは悪夢と悪酔いをもたらす麻薬で身動きを封じられていたからでした。

やがて中央の空き地に鬼が一匹と罪人らしき風体の人物が登場しました。罪人は次のように嘆きました。

「ああ、地獄に着くやいなやもらった素敵な小冊子のお陰で、安心して責め苦を受けられるというものじゃて」

すると、鬼が罪人の前に立ちふさがりました。

「罪人さん、これからどこで責め苦を受けようというのだい」

「いや、来たばかりでなんにも分からんのですじゃ」

「そうかい、それなら、おいらに付いておいでよ。チョイトいかした責め苦をやってあげるぜ」

「そりゃ好都合! (ここではっと気がついて)そうそう、鬼さんや、Gカードを見せてはくれんかね」

(鬼、身体をまさぐって)「あれ、お家に置いてきちゃった。罪人さん、後で見せるからさ、おいらに任せなよ。おいらに会ったのも、こりゃ地獄に仏ってヤツだぜ。なにしろ、おいらにかかりゃ、1万年の責め苦も、たった半日で終わっちまうのだからね。つまりだな、半日でこの地獄ともおさらばってわけさ。このチャンスを逃すって手はないぜ」

「そりゃすごい。その責め苦、受けないでいらりょうか。さっそく頼むよ」(と、罪人、裸の尻を鬼に向ける)。

「おっと、ごめんな、タダってわけにはいかないんだ。そうだな(と罪人の尻をしげしげと見る)、これくらいは戴かなくっちゃあ(と計算機の数字を示す)」

「高い!」

「だけど、あんたはこれで1万年得するんだぜ。安いもんさ。さあ、決めるなら今さ。おいらだって暇じゃあないんだ。次の約束だってあるんだ」

「ちょ、ちょっと待ってくれい。支払うとも、支払うとも(と、隠しから大量の小判を取り出し、鬼に渡す)」

「へへ、それじゃあ、責め苦をはじめましょうか」(と、罪人の尻をつねったり、棒で叩いたりする。罪人、あまりの苦痛に呻き声を上げるが、その表情はどこか晴れやかである。)

「さあ、罪人さん、これで責め苦はおしまいさ。おいらはこれで失敬するぜ」

「やあ、鬼さん、で、天国へはどう行けばいいんだい」

「ああ、ここで待っててみな、じきに別の鬼がやってきて連れてってくれるぜ」(と言い捨て鬼去る。罪人一人残される。ウキウキした様子。そこに別の鬼がやってくる。)

「さあ、おいでなすった。(鬼に声をかけて)鬼さん、わたしです、わたしです。さっそく天国に連れてっていただきましょう!」

鬼、じろりと見て「天国だと? 笑わせるない!」

「はて? 責め苦はすべて済んだはずですが?」

「ははーん! さては責め苦詐欺に引っかかりやがったな! この間抜けめ! ウジ虫め! さあ、来い。たっぷり苦しめてやるぞ! なにしろお前にはあと1億を1億倍した年数以上の責め苦が残ってるんだからな!」

鬼がこう叫ぶやいなや、軽妙な音楽が鳴り響き、その愉快な調べに合わせて、鬼たちが歌い出したのでした(罪人はいまやその扮装を剥ぎ取り、鬼の本性をさらけ出していました)。

愛は金で買えるけど
責め苦は金で買えやしねえ No No
愛に終わりはあるけれど
責め苦はいつもエンドレス Yeah
日本に元気を届けたい
世界に誇ろう日本の地獄

Check it out! Gカード!
Watch out! ニセ鬼!
地獄のSaturday Night Fever

このとき彼はわたしに語りかけました。「鬼たちはこのような愉快な寸劇を罪人たちの前で上演することで、詐欺被害防止活動に努めているのだ」

しかし、わたしはといえば、この猿芝居にあきれ果てると同時にすっかり辟易していたのでした!

2011年7月2日土曜日

抗議文(2)

すっかり混乱しているわたしに彼の声が響きました。

「生者どもが手当り次第に自分の迫害者を鬼と呼ぶ流儀についても鬼はかねてから腹に据えかねていたのだ。なにしろ、鬼を名乗れるのは鬼として正式に認定された者だけなのだからな。罪人取扱許可資格および一級責苦技術認定を取得した者のみが、地獄公認鬼として鬼と呼ばれることが許されるのだ。それゆえ、公認を受けずして鬼を名乗る者がいるとすれば、それは、間違いか、とんでもない詐称かのどちらかであり、悪質な場合には厳しく処罰されることになっている」

「そのような公認制度があるということは、鬼を詐称するものがいるということでしょうか?」

「そのとおり。次のようなニセ鬼によるトラブルが多発しており、鬼たちはかねてから憂慮しているのだ。詳しいことを知りたければ、これにざっと目を通すがよい」

といって彼がわたしに渡してくれたのは、『安心して責め苦を受けられるために〜地獄トラブルの実例と対策』と題されたパンフレットでした。その中には次のような事例が掲載されていました。

【ニセ鬼の手口1】
三途の川の到着出口のところで、ニセ鬼が「地獄で責め苦を担当する鬼だ」と正規の鬼のフリをしてだまし、強引に乗せた白タクで罪人を連れ回し、法外な料金を請求する。

《対策》
鬼だと名乗る存在から声をかけられたら、必ず地獄公認の鬼だけが所持している「地獄公認鬼免許証(Gカード)」の提示を求めましょう。

【ニセ鬼の手口2】
地獄を歩いていると鬼を自称する存在に声をかけられ、「今夜はどこそこで特別な責め苦が開催されるから、一緒に見に行こう」と誘われるままについていくと、土産物屋に連れて行かれ、高額な絨毯や壺をムリヤリ買わされる。

《対策》
「アヤしい?」と思ったら、まずGカードの提示を求めましょう。また、地獄での買い物の際は、安心価格と信頼の「鬼オススメ!」ステッカーの貼ってある、鬼推奨店を利用しましょう。

【ニセ鬼の手口3】
「鬼ならば、相場よりかなり安い価格で金棒が買える。わたしがいい店を紹介するから、わたしの名前で大量に金棒を買ってみないか。現世に持って帰って売れば、大金が儲かるぞ」などと、アヤしい取引を持ちかけてくる。うっかり口車に乗せられてクレジットカードで大金を支払ったら後の祭り。手元に残されるのは二束三文にもならないクズの金棒。

《対策》
いの一番にGカードの確認をしましょう。一本一本職人が手作りする鬼の金棒の購入は、専門の鑑定士のいるショップで。

2011年7月1日金曜日

抗議文(1)

その次に彼がわたしを連れてきたのは、地獄の洞穴の中の広大な広間でした。その中央には血糊にまみれた巨大なテーブルが据えられており、それを囲んで見るも恐ろしい風体の鬼たちが喧々囂々と議論しているのでした。

その様子はいかにと申しますと、ひとりの鬼が「ぎゅべどすとかぶる」といえば、もうひとりが「ぶがれていぇうえう」と喚いてテーブルを叩くといった具合で、鬼語を解さないわたしには鬼たちが何を論じているのか皆目見当がつきかねるのでした。

とはいえ、鬼たちがホワイトボードに鬼の文字で何かを書き付け、それを読み上げては訂正すると言った作業を繰り返している、つまり何らかの文章を推敲しているのは容易に見て取れました。

やがて、ついにその文章が完成したようでした。ひとりの鬼が巨大な硯で人間数人を擂りつぶすと、別の鬼がその血の墨に筆を浸けながら、人間の皮をなめして作ったおしゃれな便箋に丁寧に清書しました。文書が封筒に収められると、鬼たちは、一仕事終えた喜びからでしょうか、奇声を上げながら手を打ち鳴らすのでした。

「この性悪な鬼たちはいったい何をしているのでしょうか?」と尋ねると、彼は次のように答えました。

「これらの鬼たちは抗議文を作成していたのだ」

わたしは仰天して叫びました。「抗議文? いったい鬼が抗議文に何の用があるのでしょうか?」

これに対する彼の答えはまことに奇想天外といってよいものでした。

「これらの鬼たちは、大災害や戦争が起こるたびに生者どもが『まるで地獄のよう』とか『あたかも地獄のごとし』、『生き地獄に等しい』などと表現するのに憤慨しているのだ。なぜというに、鬼たちの見解によれば、鬼のいない地獄などありえないのだから。ゆえに、鬼たちは自分たちの尊厳と権利を守るために、鬼がいないのにあえて地獄などと呼ぶのは鬼という職業を軽視したはなはだしい侮蔑であると、生者どもに対して厳重に抗議すべきだと決意したのだ」

「としますと、あそこに集っている鬼たちは、ちょうど鬼の業界団体のようなものなのでしょうか」

「まさしくそうだ」

「鬼たちが自分たちを守ろうとするのはわかります。ですが、生者たちにもそれなりのわけがあるのです。多くの貴重な命が一瞬にしてむごたらしく失われるさまを目にしたら、誰しもこれは地獄だと言わずにおられないのでございます。それに、まったく鬼がいないわけでもないのです。この世を『生き地獄』と語る人々にとって、そのような苦しみを与える人々そのものがあたかも鬼であるかのようなのです」

「ああ!」と彼は憤然として言いました。「それ! それ! それ! 鬼はそれを我慢できないのだ!」

彼の言葉の意味をはかりかね、わたしはただただ唖然とするばかりでした。