君がサンタクロースだとして,クリスマス・イブの夜に世界中の子どもたちにプレゼントをあげたいと願っているとしよう。
どうしたら,それは実現できるだろうか。
まず1人では無理だ。世界中に子どもがどれだけいるか知らないが,たった一晩の間にすべての子どもにプレゼントをあげるなんて不可能だ。
子どもにも欲しいものがある——前もっていちいちリサーチしなくてはならない。そのためにどれだけの密偵が必要となるのだろうか?
枕元かどこかにそっと置いとかねばならない。適切な侵入経路を確保する頭脳,あらゆる錠を無効にする万能の鍵,物音ひとつ立てない驚異の身のこなし……いったいどのような神業がそれを可能にするのか。
いや,独力で実行するのを諦めた君が,たとえ幾千幾万のサンタを厳しい訓練のもと養成し,イブの夜に一斉に世界に放ったとしても,これらの事柄は無理なのだ。
そこで,君は考える。考えに考えて,ひとつの結論に到達する。
自分がサンタクロースとしての責務を放棄することこそが,目的を実現する最良の手段である,と。
君はもはやプレゼントを用意しない。それを袋に入れて雪の夜空を飛び回らない。どんな子どもにも何一つあげない。どんなにあげたくてじっと我慢する。
そのかわり,君はサンタクロースの素敵な伝説を世界中に広める。そしてそれと同時に,あらゆるメディアを用いて民衆を洗脳するのだ。
親たるものクリスマスイブにはサンタクロースの振りをしてこっそり子どもにプレゼントをあげねばならぬ,と。
そう,君は,みずからサンタクロースであることをやめるという捨て身の戦略によって,世界中の親たちをかえってサンタクロースにしてしまおうというのだ。
もはや,密偵も神業も必要ない。何事も親たちが君の代わりにやってくれるだろう。
歴史上のある点において,このようなトリックを案出した人物が存在したというのはまったく疑いないことだ。クリスマスのプレゼントによって世界を一変させたその恐るべき魔術師はいまも不在の衣を身にまとっている……。
毎年,クリスマスが近づくと親たちは,子どもからそれとなく聞き出すだろう。サンタのおじさんからどんなものが欲しいの,と。そして,親たちは密かに買っておいたプレゼントを,イブの夜,子どもたちが深い眠りについた後に,その枕元にそっと置くのだ,サンタクロースなどいないと心から信じ込みながら。
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