2014年2月17日月曜日

ギャザーズ・ノー・モス

【登場人物】
   A:ローリング・ストーンズのファン。
   B:その友人。ロックのことはまったく知らないが,Aに誘われてライブに来た。
   C:Bの先輩。

2014年2月26日16:30東京ドーム前。ローリング・ストーンズ来日公演の看板がある。

A「お,ちょうど開場時間だ。もう入っちゃおう」


B「待ってくれ,もうひとり来るんだ」

A「だれ」

B「先輩」

A「でも席は違うだろ」

B「すぐ着くから待ってくれって」

A「そう」

B「先輩,俺がローリング・ストーンズはじめてだって言ったら,特別にベストを作ってくれたんだ」

A「新しいベスト聞けば十分だって言ったじゃん」

B「3枚組のだろ? ちょっと多すぎるし高い。で,先輩に言ったら,選りすぐりの5曲をCDに焼いてくれた」

A「へえ,たった5曲! 何入ってんの」

B「えーと,一番気に入ったのは,あれ,名前まで覚えてないや,ジャンプなんとか」

A「ジャンピン・ジャック・フラッシュ。なるほどこれは欠かせない」

B「たしかそんな感じ。ウ〜ジャンパッてやつ」

A「そんな感じかな?」

B「あとイビキのヤツ」

A「なにそれ。なんて曲」

B「なんだっけ,ちょっと待ってて,CD持ってるから(CDを取り出してAに見せる)」

A,曲目を見て驚愕する。

【ローリング・ストーンズ】2014年東京ドーム公演はこの曲を押さえろ!【完全セトリ】
1. In Another Land
2. Downtown Suzie
3. Jump Up
4. Come Back Suzanne
5. (Si Si) Je suis un rock star

A「何だよ,こんなビル・ワイマンの曲絶対やんねーよ! しかも後半3曲はストーンズの曲ですらねえ! ビル・ワイマンの誰も知らねえソロアルバムからじゃねえか」

C「(背後から)ふふふ,よくわかったな! なかなかやりおるわい!」

B「あ,先輩!」

C「(Aに)わたしは今回のライブでのビル・ワイマンの電撃復帰を予想しているのだ! すべての兆候がそれを指し示している! ポール・マッカートニーの来日! 川上哲治の死去! 板東英二の復活! あらゆる……」

A「(無視して)さあ,中に入ろう」

B「先輩,席どこなんですか? もしかしてあの8万円の席じゃあ?」

C「ゴールデン・サークル席だと? ストーンズのLPにちっちゃなコンドームがついていた頃からのフリークであるわたしがそんな席で満足するとでも? ふふふ,わたしのチケットを見るがよい!」

C,懐から布の包みを取り出す。包みを開くと,マリモのような物体が。

B「なんですかそりゃ」

C「苔むした石だ! いや,こう言ったほうがよい,転がる石にも生える苔だ! そうだ,わたしは,石の回転をものともしない強靭な苔を長年の研究によりついに生み出したのだ。これを見たら,ミックとキースはショックのあまりわたしにバックステージ・パスを渡すようきっとアランに命じることだろうて!」

A「(小声で)こりゃ間違いなく19回目どころじゃない神経衰弱だ!」

C「おお,まさに悪魔の発明! プリーズ・アロゥミー・チュー・イントロジュース・マイセッ!(身体を痙攣させながら歌い出す)」

A「(Bに)雲から追い出すよりも,こっちが逃げたほうがましだこりゃ!」

AとB,東京ドームの中に逃げ込む。C,イカれた目つきになり,恐ろしいダミ声で唸りながら入口に向かう。「ヨウウ……グアッタ……ムウゥゥウゥブ……」

***

終演後。ドームから吐き出される人,人,人。

AとBも興奮冷めやらぬようすで出てくる。

B「かっこよかった!」

A「最高だった! もうこれで俺は死んでも悔いはない!」

B「あ,先輩!」

C「(泥まみれになって倒れている。傷だらけの顔がガードマンとの激しい格闘を物語る。手には例のマリモが握られている)う,う,う……」

AとB,駆け寄ってCを抱き起こす。

C「笑ってくれ……ストーンズを信じすぎた男の末路を……」

C,喘ぐ。激しく痙攣し,顔をのけぞらせる。

C「(苦悶の顔で)フッ!」

AとB「しっかり!」

C「フ〜〜ッ,ダディユアフールクラアィイイイイイェエエエ〜」

A「(Cを突き放して)さあ,行こう!(ずんずん歩きはじめる)」

B「(とっさにAを追うが,振り向いて)先輩!」

C「(立ち上がりながら)俺なら平気だ! (苔むした石を天に突き上げて)待ってろよ! 次はお前だ! 3月に来日するボブ・ディランよ!」

B「(『だっふんだ!』に極めて近似した口調で)ハアダズイフィ〜イッ!」

(幕にてロック・オペラ終了)


【ローリング・ストーンズを知らない人のために】
新しいベスト
「GRRR! ~グレイテスト・ヒッツ 1962-2012」

ジャンピン・ジャック・フラッシュ
"Jumpin' Jack Flash"(1968年の曲)

ウ〜ジャンパッ
ローリング・ストーンズの元ベーシスト,ビル・ワイマンが1982年に発表したソロアルバム"Bill Wyman"中の曲,"Jump Up"のサビ。

イビキのヤツ
"In Another Land"(1967年の曲)。

ミックとキース
ローリング・ストーンズのボーカルとギター。

アラン
アラン・クライン。ローリング・ストーンズの元マネージャー,故人。

19回目どころじゃない神経衰弱
「19回目の神経衰弱 "19th Nervous Breakdown"」(1966年の曲)。

プリーズ・アロゥミー・チュー・イントロジュース・マイセッ!
「悪魔を憐れむ歌 "Sympathy for the Devil"」(1968年の曲)。出だしの歌詞"Please allow me to introduce myself..."

雲から追い出す
「一人ぼっちの世界 "Get Off of My Cloud"」(1965年の曲)。

ヨウウ……グアッタ……ムウゥゥウゥブ……
「ユー・ガッタ・ムーブ  "You Gotta Move"」(1971年発表のカバー曲)

フ〜〜ッ,ダディユアフールクラアィイイイイイェエエエ〜
「愚か者の涙 "Fool to Cry"」(1976年の曲)。"Fool, daddy you're fool to cry..."

ハアダズイフィ〜イッ!
ボブ・ディランの1965年の曲"Like a Rolling Stone"中の歌詞"How does it feel?"。

ギャザーズ・ノー・モス
1977年に発売されたローリング・ストーンズの2枚組のアルバム。オリジナルではなく日本だけの特別編集盤。

0 件のコメント:

コメントを投稿