2010年10月28日木曜日

空元気(1)

近頃何をするにもおっくうで、やる気が出ない。たまたま電話のかかってきた友人に「どうも、元気が湧かなくて」とこぼすと、呆れられた。

「元気が湧かない? そんなことをいってるからダメなんだ。きょうび、元気は湧かすものじゃなくて、もらうものなんだ。どいつもこいつも言ってるだろ。『元気をもらいました!』って。時代錯誤もいい加減にしろ」

引きこもっているうちに時代が変わったらしい。 「もらうって、どこに行けばもらえるのか」

彼はしばらく考えた後、この人なら、という人を紹介してくれた。

半信半疑だったが重い体を引きずって、その元気をもらえるという人物の家に行った。息絶え絶えの有様だったが、それでもそんな気になったのは、すでに友人から多少の元気をもらっていたかららしい。

扉を開けたその瞬間から、その人物はわたしを圧倒してしまった。あたかも彼は烈風のようにわたしを拉し去り、わたしの悩みなどいとも簡単に吹き飛ばしてしまったのである。これ以上の明朗快活、これ以上の活気にわたしは出会ったことはなかった。彼はまさしく元気の源であった。

彼はさまざまなことを話した。世界のこと、平和のこと、国家のこと、幸福のこと、わたしはそれらの美しい言葉を聞いているうちに勃然と立ち上がり、叫びたい衝動に駆られた。もちろん、「元気をもらいました!」のひとことを。

だが、その瞬間、 「先生、またお話をお伺いに・・・・・・」と、怖気を催させるほどに覇気のない声が。別の若者がわたしたちの輝かしい語らいに闖入してきたのであった。この不意の妨害に、わたしはすでに上げかけた腰を下ろさざるを得なかった。

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