2010年10月12日火曜日

不屈もほどほどに

その次に彼がわたしに示したのは、まったく異様、奇々怪々な光景なのでした。

そこでは無数の人々が鬼たちと闘っているのでした。ある者は銃剣を振りかざし、ある者は竹槍を突き上げ、盛んに叫び声を上げながら、敵に猛突進していきました。敵たちは、鬼のような姿格好はしていませんでしたが、おでこに「鬼畜米英」と記された紙を貼り付けていたのでそれと知れました。

戦闘は一箇所だけで行われているのではありませんでした。遙か上空では戦闘機が唸りを上げて飛び交い、 相手を堕とそうと躍起になって撃ちまくっていました。遠い海原では白波を上げて進む空母に特攻隊が襲いかかろうとしていました。また、地上を進む戦車の群れや、敗走する兵士たちの姿も臨むことができました。かと思うと、工場で働くもんぺ姿の女性たちや、芋の蔓を囓る洟垂れ小僧も見えました。

まるであたかも、かの不幸な歴史が地獄の広大極まりないワンフロアーに出現したかのようでした。

「デアゴスティーニのシリーズ『週刊 太平洋戦争末期の世界 1/1スケール』でこれだけ完璧に再現するとしたら、いったい何週間かかることだろうか! 億ではきくまい!」と、わたしが胸算用していると、全世界に響き渡るような大声が次のように告げました。

「はい、終了〜。残念、原爆また落とされた〜!」

直ちに、凄まじい熱と光が炸裂し、これらの情景をあっという間に破壊し去り、後には焼け野原と一群の男と鬼が残されました。これらの男たちは、原爆などなかったかのように再び武装をはじめ、鬼たちにたいしてもう一度パールハーバーをおっぱじめたのでした。

唖然としているわたしに彼が語りかけました。

「戦争で負けたことを受け入れることのできない負けず嫌いは、死後このような地獄に落ちることとなるのだ。彼らは現実と同じ条件の下に闘い、原爆が落ちるまでの間に勝利することができれば解放されることになるのだが・・・・・・竹槍ではな!」

彼は爆笑していました。そしてわたしも釣られて腹を抱えて笑ったのでした。わたしたちはその場に留まり、原爆が15〜6回ほど続けて落とされるのを見て笑い転げていましたが、やがて飽きたので別の地獄に移動しました。

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