2010年10月29日金曜日

空元気(2)

その若い男がここに何しにきたかは、疫病神のような顔を見れば一目瞭然だった。わたしと同じように元気の分け前にありつこうと、なけなしの気力を奮い立てて這いつくばるようにしてやってきたのだった。

いつものわたしだったら、こんな塞ぎの虫の親玉のようなヤツと同席することに激しい嫌悪を抱いたかもしれなかった。しかし、わたしは、何のためらいもなく、彼が座れるように腰をずらした。すでにかなりの元気をもらったため、博愛精神が芽生えはじめていたのだ。

再び、清々しい談話がはじまった。元気の源先生は、かけがえのない生命についてさまざまな感動的な実話とともに語り、わたしはそれを聞くやたちまち生命の炎が身中に燃え広がるのを感じた。あまりの熱気にシャツを引き裂かんばかりだった。若者をちらりと横目で見ると、やはり元気をもらっているご様子で、頬に赤みが差すほどの打ち変わりよう。

しかし、この男、身を乗り出して積極的に話にぐいぐい入ってくるので、先生もだんだん新参者のほうを向いて話し出す。これはいかん、とわたしも話に加わろうとするが、二人のやりとりにどうしても食い込むことができない。幾度も無駄に城攻めを繰り返したあげく、わたしはすっかり元気をなくしてしまった・・・・・・そこで、気がついた。わたしは元気の争奪戦に敗れる瀬戸際にいたのである。

わたしは最後の元気を振り絞って、決戦にうって出た。

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