2011年7月2日土曜日

抗議文(2)

すっかり混乱しているわたしに彼の声が響きました。

「生者どもが手当り次第に自分の迫害者を鬼と呼ぶ流儀についても鬼はかねてから腹に据えかねていたのだ。なにしろ、鬼を名乗れるのは鬼として正式に認定された者だけなのだからな。罪人取扱許可資格および一級責苦技術認定を取得した者のみが、地獄公認鬼として鬼と呼ばれることが許されるのだ。それゆえ、公認を受けずして鬼を名乗る者がいるとすれば、それは、間違いか、とんでもない詐称かのどちらかであり、悪質な場合には厳しく処罰されることになっている」

「そのような公認制度があるということは、鬼を詐称するものがいるということでしょうか?」

「そのとおり。次のようなニセ鬼によるトラブルが多発しており、鬼たちはかねてから憂慮しているのだ。詳しいことを知りたければ、これにざっと目を通すがよい」

といって彼がわたしに渡してくれたのは、『安心して責め苦を受けられるために〜地獄トラブルの実例と対策』と題されたパンフレットでした。その中には次のような事例が掲載されていました。

【ニセ鬼の手口1】
三途の川の到着出口のところで、ニセ鬼が「地獄で責め苦を担当する鬼だ」と正規の鬼のフリをしてだまし、強引に乗せた白タクで罪人を連れ回し、法外な料金を請求する。

《対策》
鬼だと名乗る存在から声をかけられたら、必ず地獄公認の鬼だけが所持している「地獄公認鬼免許証(Gカード)」の提示を求めましょう。

【ニセ鬼の手口2】
地獄を歩いていると鬼を自称する存在に声をかけられ、「今夜はどこそこで特別な責め苦が開催されるから、一緒に見に行こう」と誘われるままについていくと、土産物屋に連れて行かれ、高額な絨毯や壺をムリヤリ買わされる。

《対策》
「アヤしい?」と思ったら、まずGカードの提示を求めましょう。また、地獄での買い物の際は、安心価格と信頼の「鬼オススメ!」ステッカーの貼ってある、鬼推奨店を利用しましょう。

【ニセ鬼の手口3】
「鬼ならば、相場よりかなり安い価格で金棒が買える。わたしがいい店を紹介するから、わたしの名前で大量に金棒を買ってみないか。現世に持って帰って売れば、大金が儲かるぞ」などと、アヤしい取引を持ちかけてくる。うっかり口車に乗せられてクレジットカードで大金を支払ったら後の祭り。手元に残されるのは二束三文にもならないクズの金棒。

《対策》
いの一番にGカードの確認をしましょう。一本一本職人が手作りする鬼の金棒の購入は、専門の鑑定士のいるショップで。

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