2011年7月6日水曜日

抗議文(3)

この奇天烈なパンフレットを貪るように読んでいると、彼はわたしに告げました。

「この地獄にやってきた罪人はもれなくこの小冊子を受け取るのだ。これはよりよい地獄を目指す鬼たちの取り組みのひとつに過ぎない。さあ、来るがよい」

彼はわたしを洞窟から連れ出し、今度は大きな広場に導きました。そこでは無数の罪人たちが中央の空き地を取り囲んでいました。罪人たちはみな動くことができませんでした。なぜならあるものは鎖で縛られ、あるものは杭に打ち付けられ、またあるものは地獄特製のチクチクするガムテでがんじがらめにされ、またあるものは悪夢と悪酔いをもたらす麻薬で身動きを封じられていたからでした。

やがて中央の空き地に鬼が一匹と罪人らしき風体の人物が登場しました。罪人は次のように嘆きました。

「ああ、地獄に着くやいなやもらった素敵な小冊子のお陰で、安心して責め苦を受けられるというものじゃて」

すると、鬼が罪人の前に立ちふさがりました。

「罪人さん、これからどこで責め苦を受けようというのだい」

「いや、来たばかりでなんにも分からんのですじゃ」

「そうかい、それなら、おいらに付いておいでよ。チョイトいかした責め苦をやってあげるぜ」

「そりゃ好都合! (ここではっと気がついて)そうそう、鬼さんや、Gカードを見せてはくれんかね」

(鬼、身体をまさぐって)「あれ、お家に置いてきちゃった。罪人さん、後で見せるからさ、おいらに任せなよ。おいらに会ったのも、こりゃ地獄に仏ってヤツだぜ。なにしろ、おいらにかかりゃ、1万年の責め苦も、たった半日で終わっちまうのだからね。つまりだな、半日でこの地獄ともおさらばってわけさ。このチャンスを逃すって手はないぜ」

「そりゃすごい。その責め苦、受けないでいらりょうか。さっそく頼むよ」(と、罪人、裸の尻を鬼に向ける)。

「おっと、ごめんな、タダってわけにはいかないんだ。そうだな(と罪人の尻をしげしげと見る)、これくらいは戴かなくっちゃあ(と計算機の数字を示す)」

「高い!」

「だけど、あんたはこれで1万年得するんだぜ。安いもんさ。さあ、決めるなら今さ。おいらだって暇じゃあないんだ。次の約束だってあるんだ」

「ちょ、ちょっと待ってくれい。支払うとも、支払うとも(と、隠しから大量の小判を取り出し、鬼に渡す)」

「へへ、それじゃあ、責め苦をはじめましょうか」(と、罪人の尻をつねったり、棒で叩いたりする。罪人、あまりの苦痛に呻き声を上げるが、その表情はどこか晴れやかである。)

「さあ、罪人さん、これで責め苦はおしまいさ。おいらはこれで失敬するぜ」

「やあ、鬼さん、で、天国へはどう行けばいいんだい」

「ああ、ここで待っててみな、じきに別の鬼がやってきて連れてってくれるぜ」(と言い捨て鬼去る。罪人一人残される。ウキウキした様子。そこに別の鬼がやってくる。)

「さあ、おいでなすった。(鬼に声をかけて)鬼さん、わたしです、わたしです。さっそく天国に連れてっていただきましょう!」

鬼、じろりと見て「天国だと? 笑わせるない!」

「はて? 責め苦はすべて済んだはずですが?」

「ははーん! さては責め苦詐欺に引っかかりやがったな! この間抜けめ! ウジ虫め! さあ、来い。たっぷり苦しめてやるぞ! なにしろお前にはあと1億を1億倍した年数以上の責め苦が残ってるんだからな!」

鬼がこう叫ぶやいなや、軽妙な音楽が鳴り響き、その愉快な調べに合わせて、鬼たちが歌い出したのでした(罪人はいまやその扮装を剥ぎ取り、鬼の本性をさらけ出していました)。

愛は金で買えるけど
責め苦は金で買えやしねえ No No
愛に終わりはあるけれど
責め苦はいつもエンドレス Yeah
日本に元気を届けたい
世界に誇ろう日本の地獄

Check it out! Gカード!
Watch out! ニセ鬼!
地獄のSaturday Night Fever

このとき彼はわたしに語りかけました。「鬼たちはこのような愉快な寸劇を罪人たちの前で上演することで、詐欺被害防止活動に努めているのだ」

しかし、わたしはといえば、この猿芝居にあきれ果てると同時にすっかり辟易していたのでした!

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