「なるほど!」 わたしは感歎した。「こんな遺書が書ければ死んでも悔いはありません!」
「でしょう! さあ、さっそくはじめましょう。まず1行目をあなたなりに書き換えて見せてください」
わたしは紙を見つめた。
「先生、・・・・・・三日とろろとはなんでしょう」
「三日とろろとは福島の風習で、お正月三が日の間にとろろを食べて無事息災を祈るというものです」
「4日目に食べてもよいのでしょうか」
「とろろはいつ食べてもいいかと。ですが、それでは三日とろろとは言えないのでは」
「できました!」
「どれ」
「『父上様母上様 四日とろろ美味しうございました。干し柿 もちも美味しうございました。』」
「四日とろろとは?」
「三日より四日のほうが多いので、こっちの方がいい遺書になるかと・・・・・・」
「いや、ちゃんとあるものを書いてください!」
「では、とろろそばでは?」
「もし、あなたが本当においしいと思ったなら、それでもいいでしょう」
「実はわたし、とろろが苦手で。口が痒くなるんです」
「本当のこと、事実、真実を書いてください! あなたがご両親から食べさせてもらったもので一等おいしかったもの、一番記憶に残っているものを書くのです」
わたしはしばらく考えた。 1年ほど前、両親が上京してきたときに、新宿のラーメン屋に行ったことを思いだした。
「『父上様母上様 ラーメン美味しうございました。』」
「悪くないですよ。ですが、どんなラーメンなんです」
「とんこつです」
「お店のですか」
「ええ、新宿の宮本屋で」
「宮本屋! 知る人ぞ知る隠れた名店! 取材お断りのため、どこを見ても地図が載っていないという!」
「ええ、でも近所なので知ってるんです」
「おお! で、お味の方は?」
「美味しうございました」
「いや、ダメダメ! もっとちゃんと教えてください。スープはどうだったんです。コラーゲンたっぷりで膜ができるほど? それともさらりとしているがミルクのように濃厚?」
「どちらかというと、ミルクですか」
「で、背脂は?」
「ありませんでした」
「いいぞ! 背脂に頼りすぎる店が多すぎるのには辟易してたんだ!」 先生、いつの間にかメモを取り出してぱらぱらめくっている。「で、麺は? メモには富岡製麺から直送と書いてあるが、そんなことはありえないはずなんだ。あそこはもう新規は受け入れないというから」
「そこまではわかりません」 とんだラーメン・マニア。
「こりゃもうじっとしてはいられませんな。さっそく行きましょう!」
「遺書のほうは?」
「良い遺書というものは真実が記されていなければならないのです。それを確証するのが、講師たるわたしの役目です!」
四反田はよだれを拭きながらきっぱりと答えた。
「でしょう! さあ、さっそくはじめましょう。まず1行目をあなたなりに書き換えて見せてください」
わたしは紙を見つめた。
「先生、・・・・・・三日とろろとはなんでしょう」
「三日とろろとは福島の風習で、お正月三が日の間にとろろを食べて無事息災を祈るというものです」
「4日目に食べてもよいのでしょうか」
「とろろはいつ食べてもいいかと。ですが、それでは三日とろろとは言えないのでは」
「できました!」
「どれ」
「『父上様母上様 四日とろろ美味しうございました。干し柿 もちも美味しうございました。』」
「四日とろろとは?」
「三日より四日のほうが多いので、こっちの方がいい遺書になるかと・・・・・・」
「いや、ちゃんとあるものを書いてください!」
「では、とろろそばでは?」
「もし、あなたが本当においしいと思ったなら、それでもいいでしょう」
「実はわたし、とろろが苦手で。口が痒くなるんです」
「本当のこと、事実、真実を書いてください! あなたがご両親から食べさせてもらったもので一等おいしかったもの、一番記憶に残っているものを書くのです」
わたしはしばらく考えた。 1年ほど前、両親が上京してきたときに、新宿のラーメン屋に行ったことを思いだした。
「『父上様母上様 ラーメン美味しうございました。』」
「悪くないですよ。ですが、どんなラーメンなんです」
「とんこつです」
「お店のですか」
「ええ、新宿の宮本屋で」
「宮本屋! 知る人ぞ知る隠れた名店! 取材お断りのため、どこを見ても地図が載っていないという!」
「ええ、でも近所なので知ってるんです」
「おお! で、お味の方は?」
「美味しうございました」
「いや、ダメダメ! もっとちゃんと教えてください。スープはどうだったんです。コラーゲンたっぷりで膜ができるほど? それともさらりとしているがミルクのように濃厚?」
「どちらかというと、ミルクですか」
「で、背脂は?」
「ありませんでした」
「いいぞ! 背脂に頼りすぎる店が多すぎるのには辟易してたんだ!」 先生、いつの間にかメモを取り出してぱらぱらめくっている。「で、麺は? メモには富岡製麺から直送と書いてあるが、そんなことはありえないはずなんだ。あそこはもう新規は受け入れないというから」
「そこまではわかりません」 とんだラーメン・マニア。
「こりゃもうじっとしてはいられませんな。さっそく行きましょう!」
「遺書のほうは?」
「良い遺書というものは真実が記されていなければならないのです。それを確証するのが、講師たるわたしの役目です!」
四反田はよだれを拭きながらきっぱりと答えた。
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